企業が誕生して当分の間、その企業には非常に小さなブランド価値しかない。こうした企業では、企業価値の大半は有形的な資産の価値に由来する。ブランド価値は消費者の記憶への刷り込みという要素が重要であり、ある程度の年月を経て構築されることが多い。しかも、いったん企業の信用が傷つくと、企業の資産の中で最も速やかに失われる。
このように、デリケートな性質を持つにもかかわらず、今やブランドは企業価値を大きく左右する最も大きな要因となっている。
さらに、今日ではウェブサイトが企業のブランド力に与える影響がますます無視できなくなっている。
ブランド論における基本概念
(1)アーカーのブランドエクイティ
ブランド研究の第一人者であるD・A・アーカーは、ブランドの資産的価値に着目し、ブランドエクイティというコンセプトを提唱した。アーカーによれば、ブランドエクイティは次の5つの要素からなる。(図1)
【図1】ブランドエクイティのコンセプト
ブランド認知
(本連載第3回の説明の通り)
ブランド連想
(本連載第5回の説明の通り)
知覚品質
顧客が品質に対して下す評価のこと。
ブランドロイヤルティ
消費者のブランドに対する忠誠度。
他の所有権のあるブランド資産
特許、商標など資産性のある権利等。
(2)ブランドエクイティの源泉
ブランドに資産的価値があるのは、ブランドが持つ次のような力を源泉としている。
売上が安定上する
消費者の強固なロイヤルティを獲得したブランドは、他社製品に容易に乗り換えられないため、競争や危機に対する抵抗力を持っている。
利益率が向上する
価格に左右される消費者の割合が減り、大きなマージンが確保できる。
マーケティングコミュニケーションの効果が高まる
消費者に好意をもたれているブランドでは、消費者はすでに広告によって説得されやすい状態にある。従って、マーケティングコミュニケーションに対する好意的反応が期待できる。
ブランド拡張の機会が増える
新製品を投入する際、既存のブランドを利用することによって不確実性を減らし、効果的な導入を図ることができる。
ライセンス供与の機会が増える
強いブランドは当然他社にとっても魅力的である。ビジネス上のパートナーシップを通じてブランド価値を利用する機会が広がる。
ウェブブランディングにおける方法論
(1)コンテンツ管理
ウェブサイトの価値はどれだけ多くのアクセスを集められるかによって決まると多くの人は考えている。実際にはBtoBサイトのように必ずしもこの公式が当てはまらない場合が少なくないが、少なくともメディアサイトではアクセスは非常に重要であり、BtoC企業サイトの多くも該当する。
アクセスを集める元になるのは魅力的なコンテンツであることはもちろんだが、公開する情報にはすべて著作権や肖像権などが絡んでくる。これらの権利処理を適切に行うことは信頼される企業ウェブサイトのために非常に重要なことである。
企業内で作成したコンテンツや、企業対企業でやり取りされるコンテンツについては専門的な知識を持った人が対応することでトラブルを未然に防ぐことができる。しかし、ウェブ2.0的なユーザーが生成するコンテンツを取り入れようとする場合、情報が爆発的に増える中で管理を行き届かせるのは非常に大変である。
(2)ドメイン管理
コンテンツは再生、追加が可能だが、ドメインは権利であり自由に移動できるものではない。このことから、ドメインこそ実はウェブサイトの資産価値の源泉であり、むしろコンテンツより重要であるというケースがある。ドメインの紛争処理ルールが整備された今日でも、企業ブランドとは異なるブランドでサイトを展開したい場合など、色々と面倒な問題が起こる可能性はある。数が増えれば維持コストも小さくないため、一貫したブランド戦略の下で全社的に一元管理すべきことだが、なかなか実行できない企業が多い。
(3)情報資源管理
サーバーやネットワークなどのインフラ、コンテンツ配信のためのCMSなどのソフトウエア、アクセス権限の設定など、さまざまな情報資源をどのように管理すべきかという問題がある。部門によってニーズが対立することも少なくない。たとえば、アクセスログはできるだけデータ量が少なくなる形式で保存期間も限定して行った方が消費資源は少なくて済むため、情報システム部門はそうしたがる傾向があるが、マーケティング的視点からデータ解析を行うためにはデータは多い方がよい。
(4)組織管理
以上のようなさまざまな問題を解決するため、ウェブブランディングに関係する組織をどのようにするかは重要な問題である。現在、専門部署を置いているところもあれば特定の部署の傘下にある場合もあるなど企業によって管理部署はさまざまであり、試行錯誤が繰り返されている。
参考文献:D.A.アーカー著、陶山計介、中田善啓、尾崎久仁博、小林哲 訳 『ブランド・エクイティ戦略』、ダイヤモンド社
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