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Brand Strategy journal ブランド戦略通信

Webマスターに聞く!

シリーズ3 第2回:株式会社i.JTB

話し手
株式会社i.JTB(アイドットジェイティービー)
代表取締役社長 兼 CIO

北上 真一氏
顔写真

Webサイト、オンラインビジネスの先駆け

「JTBのWebサイト(【図1】)の機能は主に3つ。1つが電子パンフレットで、2番目がメールなどを中心とした双方向コミュニケーション、そして3つ目が宿泊、ツアーのネット予約・決済などのオンラインビジネス。要は、JTBのインターネット支店として、旅行販売を推進するための機能を提供している。これらのコンセプトは昔も今も変わらず、技術的な進歩とともに、その上に何が成り立つのかを考えて、日々進化させている」。2006年4月、JTBグループのインターネット販売事業を一手に担う新会社として設立された、i.JTBの北上真一代表取締役 兼 CIOは、Webサイトの役割をそう明快に言い切る。

インターネット上にJTBのWebサイトが立ち上がったのは1994年。大手企業のWebサイト開設が集中したのが95年ごろだから、一足早い時期にあたる。また、それ以前のパソコン通信の時代からの取り組みも含めると、オンラインでの情報提供の歴史は古い。そして、重要なポイントは、その頃からパッケージツアーの紹介など旅行販売に関連する情報提供を進めていたことだ。「当初、他社が会社説明などを展開する中、うちは旅行情報の提供にこだわり、まずは海外からの旅行者向けに日本観光のパッケージツアーの紹介から始め、徐々に国内旅行も扱っていった。最初から販売ツールとしていけるという考え方だった」。

97年にはコンビニのマルチメディアステーションでイベント等のチケット販売を開始。98年にはコンビニ向けに開発したエンジンを活用し、早くもインターネット上でオンラインビジネスの展開に着手する。最初は国内の宿泊予約から、翌年には海外の航空券やパッケージツアーも扱い始めた。その後、年を追うごとにWebサイトの充実度は増し、今では「販売ツール」として完全に定着するに至った。

リアルも連動した双方向コミュニケーション

現状の3つの機能に着目すると、まず1つ目の電子パンフレット機能では、全国のJTB各支店で販売する国内外の旅行パンフレット1万冊がアップされる世界最大級のパンフレットサイトと構築している(【図2】)。また、インターネット支店という立場から、オンライン限定のイベント・旅行商品も販売するなど、より発展的な展開にも取り組む。

一方、2つ目の双方向コミュニケーション機能にも力が入る。現在発行するメールマガジンの数は21通。全国共通の情報から「首都圏」や「中部」、「関西」、「九州」など地域の顧客向けの情報まで、様々なラインナップを取り揃える。また、インターネット会員制度も導入し、旅行などの予約によるポイントの提供、会員限定コンテンツ、会員限定キャンペーンなどを展開している。会員は一般とVIPに分け、VIPには2倍のポイント、VIP限定の割引、先行予約などを提供する。会員数はアクティブに動いているものだけで80万人を数える。

05年秋からは、支店スタッフが旅行体験記や日記を公開するコンテンツの提供も本格スタートした(【図3】)。スタッフが書いたテキストや写真を、各支店のWeb担当者がアップロードするなど、更新をそれぞれの支店の裁量に任せるシンプルな仕組みが奏功し、06年11月末現在で2000件近いスタッフ発の情報が掲載される一大コンテンツとなっている。「最初にテキストの書き方、写真の加工方法などをある程度教育し、その後はノータッチで各支店の責任でやってもらっている。その記事を見た地域在住の方から電話で申し込みがあるなど、レスポンスもあるので、各スタッフは高いモチベーションで取り組めていると思う」と、北上氏は指摘する。ここではネットとリアルの世界を連動させた双方向性を実現しているわけだ。

Ajaxなど最新技術を導入するオンラインビジネス

そして、3つ目のオンラインビジネス。現在、オンラインビジネスの売上高(Webサイト上で決済されたもののみ)は、年間約700億円に達し、JTB全体の売上高1兆2600億円に対し5%程度を占めるまでに成長した。しかし、北上氏は「まだまだ道半ばであり、開発途上にある」と、決して満足はしていない。

より一層の売上増に向けてJTBは次々に新しい機能を追加する。最近では、最新技術「Ajax」を採用した簡単旅館・ホテル検索コンテンツ「JTBonline.jp」をスタート(【図4】)。AjaxはWebブラウザに実装されているJavaScriptのHTTP機能を活用し、ユーザーの操作や画面描画と並行してサーバーとXML形式のデータを非同期に通信することで、WebページをリロードせずにWebアプリケーションを利用できる技術である。ユーザーはPC本体のネイティブアプリケーションと同じような操作環境をWebアプリケーションでも得られるもので、Googleマップで一躍有名になった技術だ。

JTBオンラインでは、Ajaxを使い、各宿泊施設のプラン、料金、空室状況が3ヶ月先まで一覧できるようにした。宿泊施設の場合、メーカーの製品などと違って、いくら好条件な商品であっても希望する日に空室がなく購入できないケースがあるが、この機能があれば、前日や翌日、前週や翌週の状況を同時に見せられ、第二、第三希望への“乗り換え”が期待できる。「せっかく空いているのに見つからなかった、だから行けなかったという機会損失が我々にとって一番ショック。それがJTBオンラインでは、解消できる」と、北上氏。今後は空室が出たら瞬時にデータを更新するなど、機会損失を可能な限りなくしていく。

さらに、JTBではトップページのリニューアルにも積極的に取り組む。最近では、10月末にトップページの画面解像度を800×600ドットから1024×768ドットにワイド化し、一度の表示する情報掲載量を増やした。「Internet Explorer7.0やWindows Vistaを意識した改良。それに今はPCの画面自体のワイド化が進んでいるので、それへの対応という側面もある」。

380人体制でWebサイトを構築

トップページのリニューアルやJTBオンラインなど新しい試みの際は、ユーザーアンケートを実施し、その評価を参考に修正を加えていくこともJTBの特徴である。1ヶ月、時には数ヶ月はβ版として位置付け、修正後に最終的なリリースとする。「アンケートの回収は数千通を超えることもある。字が小さいとか、読みにくいとか、Macではどう表示されるとか、様々な意見が集まるので、必要なものは反映させる。そうしたきめ細かい対応をしていかないと、リニューアル後、ユーザーに逃げられかねない」と、北上氏は話す。

今後は、顧客囲い込みのための地域密着型情報提供により一層注力する。現在は、手始めとしてモデル店舗を十数店設け、Webサイトをベースにした顧客とのコミュニケーションをトライアルで実施している。例えば、地域の顧客に対し支店単位で地域性を生かしたメールによる情報提供を実施したり、顧客から要望や意見をメールで集めて24時間以内に返信するなどきめ細かい対応を試行中だ。

こうして新しい技術や企画を次々とスピード感を持って導入できるのは、コンテンツの企画・編集・制作にとどまらず、システムの開発から運営まで、基本的には全てi.JTBが担っていることも大きな要因である。i.JTBでWebサイトに関わるスタッフ数は380人。そのうち約120人が24時間365日のオペレーションを、100人前後がシステム開発を、140人が企画や編集業務を担う。

「ビジネスとシステムは表裏一体であり、クルマの両輪」と、北上氏はいう。ビジネスとシステムが相互に企画や機能を提案し合うことで、よりJTBのWebサイトはブラッシュアップされていく。大所帯が支えるWebサイトが、今後どのような先端の輝きを放つのか、楽しみである。

JTBのWebサイト構築のポイント
  • Webサイトのコンセプトを「電子パンフレット」、「双方向コミュニケーション」、「オンラインビジネス」の3つに明確化。電子パンフレットでは世界最大級のコンテンツをアップ。
  • 双方向コミュニケーションでは、豊富なラインナップのメルマガを用意。また、各支店スタッフの記事を掲載し地域顧客の需要を喚起するなどリアルを動員した地域密着にも注力
  • オンラインビジネスではAjaxなど最新技術を積極採用しユーザビリティの向上を実現
  • 大型リニューアル後はユーザーの評価をアンケートで集め、意見や助言を参考に微修正
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