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Brand Strategy journal ブランド戦略通信

Webマスターに聞く!

シリーズ1 第5回:株式会社NTTドコモ

話し手
NTTドコモ 広報部広報部門 Web担当課長
部彰氏
NTTドコモ 広報部広報部門Web担当
深沢隆治氏

事業内容に相応しい先進的な装いに変身

NTTドコモのトップページ

【図1】トップページ

「2003年11月のリニューアルで導線を整理して、完全ではないが、ようやくユーザビリティが良くなった」

NTTドコモのWebサイト制作を担っている8人のうちのひとりである、広報部広報部門Web担当の深沢隆治氏は現在のWebサイトの出来栄えについて、そう評価する。確かに、同社のトップページは情報が整然とカテゴライズされていて、知りたい情報にすぐにたどり着けるような情報構造になっている。トップページの一等地とも言えるトップ下の中央上段のスペースは、FLASH技術を用いて一定の間隔で画面が切り替わるように設定し、ユーザーが各製品、各サービスの情報を漏れなく得られるように工夫もしている。

しかし、この完成度の高いWebサイトも、一朝一夕で今の形にたどり着いたわけではない。「2001年に自分が広報部に配属されたときは、モバイル分野の先端企業のWebサイトとはとても言えないような代物でした。例えば、「iモード」という項目の入口が同じページに3つも4つもあったり、カテゴリが何のコンセプトもないまま作られていたり、また、すごく静的で新しいWebの技術が何も使われていないなど、問題は山積み。そこで、着任早々『リニューアルせよ』と上司から指示されました」(広報部広報部門Web担当の部彰課長)。

まずは、事業内容に合致した「先進的なイメージ」を出すことに取り掛かる。当時ちょうどFOMAサービスを立ち上げる頃だったので、その訴求をトップページで展開するにあたって、FLASH技術を採用し、“動的”で洗練されたNTTドコモにふさわしい装いに変身させた。

それにより、ブランドイメージとしての先進性を出すことには成功した。だが、これはリニューアルの第一歩に過ぎない。流行の服は来たものの、内面は変わっていない状態、つまり、この時点では表層的な部分しか改善されていなかった。

“ユーザー視点”に徹底的にこだわる

ドコモeサイト

【図2】ドコモeサイト

広報部では、中身にもリニューアルをかけるために、その参考指標として、解析ツールを使ってアクセスログを分析し、ユーザーの行動パターンを綿密に調べた。すると、新製品が出ると、その製品ページのアクセスが上がり、FAQのアクセスも増えることがデータとして確認された。

「やはり、お客様はWebサイトに対して情報提供を求めていると改めて実感しました。それなのに、カテゴリが整理されていない今の状態では、お客様は自分のほしい情報がどこにあるのかわからず、サイト内をグルグル周って結局必要な情報を得られないまま帰ってしまう可能性が高い。この使いにくさを何とかしなければということで、ユーザーの立場に立ったユーザビリティの改善に取り組んだのです」(部課長)

こうした発想のもと、情報構造の見直し、カテゴライズの最適化などに着手。現在のような使い勝手の向上したWebサイトの構築を成し遂げたわけだ。

また、NTTドコモでは、そうした根本的な構造改革だけでなく、細かいユーザビリティも“ユーザー視点”の名の下に徹底的にケアしている。

例えば、NTTドコモでは、広報部とは別の部署が、各種サービスのお申込みや料金プラン変更、住所変更などをオンラインで受け付けている「ドコモeサイト」を立ち上げているが、広報部では、そのページの利用頻度を上げるために、トップページからのナビゲーションを丁寧に構築している。

「ショップや電話受付で対応するよりも、オンラインで受け付けるほうがコスト的に安く済むので、より一層ドコモeサイトの活用度を増やしたいという社内からの要請もある。従って、トップページからうまくドコモeサイトにつないでいく仕組み作りは自分たちの重要なミッションになっている」と、部課長は説明する。

トップページの見やすい場所にドコモeサイトのアイコンを置いているのはそのため。また、ドコモeサイトを利用するにはIDとパスワードが必要だが、そうした突然の要求にユーザーが戸惑うことがないように事前に説明するページを設けるなど随所に工夫を施す。こうして、“ユーザー視点”というコンセプトを徹頭徹尾に貫いているからこそ、現在のようなユーザビリティの高いWebサイトに仕上がっているのだ。

“伝えるサイト”から“使われるサイト”へ

ぴったり料金プラン診断

【図3】ぴったり料金プラン診断

今後もユーザー視点をさらに徹底し、リニューアルを重ねていくという。「来年には電話番号を変更せずに携帯電話会社を乗り換えられる『ナンバーポータビリティ』が始まり、他社と契約しているユーザーがNTTドコモのWebサイトを見に来る機会が今以上に増える。そのときに我々が使っているナビゲーションや言葉が、そのようなお客様に通じない可能性が高い。例えば、『FOMA』というブランドを聞いたとき、ドコモユーザーならいちいち説明しなくてもそのサービスやメリットをわかってもらえると思うが、他社ユーザーにこの考え方は通用しない。せっかく訪れてくれたのに、利点がわからないまま帰ってしまうことも考えられる。従って、他社ユーザーの知識や行動特性なども視野に入れて、『ユーザーシナリオ』をもう少し厳密に練り直し、サイトを再構築する必要がある」(部課長)

一方で、コンテンツとしては、個人カスタマイズされた情報提供にも力を入れていくという。自分だけのための情報が提供されると、ユーザーの納得感が得られるというのが導入を進める大きな理由だ。

現在提供されているサービスでいうと、料金シミュレーションサイトがそれに当たる。これは条件を入力すれば自分に最適なプランが自動的に提示されるサービス。請求書が届く頃にアクセスが確実に上がる人気コンテンツだ。このシミュレーションサイトは5月半ばに大幅なリニューアルを実施し、名称も「ぴったり料金プラン診断」と改名され、さらに機能性が向上。単なる情報提供だけでなく、顧客満足度も高めるという、ワンランク上のサービスの提供に成功している。

NTTドコモでは、今後もこうしたシミュレーション的な機能を拡充する方針だ。目下、念頭にあるのは、トヨタ自動車が提供する車種の検索機能。これは、自分の希望する条件を入力するとそれに合致した車種を提示するもの。商品・サービスが多種多様でどれが自分に最適な機種なのかいまひとつわかりづらい携帯電話という商品にも必要な機能だ。「この部分をサポートできれば、“伝えるサイト”から“使われるサイト”へサイト自体も進化できる。サイト上で購入する機種を決められれば、店頭であれこれ迷うことがなくなり、接客時間の短縮という見えない効率化にもつながる」と部課長は意気込む。

ユーザーを混乱させる要因の除去が課題

FOMA901iサイト

【図4】FOMA901iサイト

サイトの内の“情報のリンク”もユーザー視点を重視して構築し直している。NTTドコモは環境対策に精力的に取り組んでいるが、それを紹介するコンテンツは企業情報ページに置かれているため、ユーザーの目に触れにくい。そこで、商品を案内するページに使用済みの機種に関しては回収してリサイクルしていることを伝えるアイコンを置いた。すると、アクセスが目に見えて増え、労せず環境対策を周知できた。人気コンテンツの中に埋もれているコンテンツへのリンクを張るという、ユーザーの動線を意識した手法が結実したのだ。

「他にも、ドコモプレミアクラブに入会すると故障の際の修理が無料になるなど、意外と知られていないサービスがまだある。これも、故障のページを見たら、プレミアクラブの案内が置かれているなど、関心があるときに埋もれている情報を知ってもらえるような情報のリンクを、裏側のほうで構築していきたい」(部課長)

また、ユーザーを混乱させたり、戸惑わせる要因の除去も今後の課題に挙げる。

2004年12月、新発売に合わせて立ち上げたFLASH技術を利用したFOMA901iプロモーションサイトも、先進的なイメージを訴求できたものの、結果的にユーザーを戸惑わせるという副作用が生じてしまった。画質や階層を浅く設計するためマウスオーバーなどの仕掛けに凝るあまりコンテンツの立ち上がりが遅くなり、情報への到達に時間がかかるというデメリットが発生したのだ。「FLASHが前面に立ち上がり、ユーザーの欲しい詳細情報が後ろ側にあるというのはやはり問題。今後FLASHは、ユーザビリティを考慮した上で使いわけていく」と、冒頭に現在のWebサイトの出来を自己評価した深沢氏は話す。

今年中には、より厳密なユーザーシナリオに基づいた大幅なリニューアルを実施予定。“ユーザー視点”という大きな軸に基づいて、課題の克服も含めてどのように生まれ変わるのか、その行方が注目されるところだ。

NTTドコモによる、Web価値増大のための改良ポイント
  • ユーザーの行動特性を解析ツールで分析した上でのユーザビリティの徹底的な追及
  • トップページから各コンテンツへのナビゲーションなど、細かい部分も丁寧にケア
  • ナンバーポータビリティ開始に備えて、ユーザーシナリオをブラッシュアップ
  • シミュレーション機能を充実させ“伝えるサイト”から“使われるサイト”へ
  • 埋もれている情報は効果的なリンクによって、訴求機会を増やしていく
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