話し手 |
全日本空輸株式会社 営業推進本部チャネル企画部 eコマースグループ 主席部員 大崎知之氏 |
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ネット販売がリアルを凌駕
【図1】トップページ
2004年12月、全日本空輸のWebサイトにとって記念すべき瞬間が訪れた。航空券のインターネット予約が個人旅客全体の販売量の中で過半数を占めた。つまり、ネットがリアルをはじめて上回ったのだ。「特に目標値として掲げていたわけではないが、半分に達したというのはひとつの区切りだ。今後も鈍化するような兆しは見られないので、しばらくはこのペースが続いていくと思う」と、Webサイトの構築や運営を担当する、営業推進本部チャネル企画部eコマースグループの大崎知之氏は、感慨深げに語る。 インターネット販売がこれだけ利用されている理由はいたってシンプル。経験者は分かると思うが、圧倒的に便利だからだ。Webサイト上で空席状況を一覧で確認でき、料金も同時にチェックできる。あとは数回クリックすれば予約・購入が完了するという、忙しいビジネスマンにとっては何とも有難い手間暇入らずのシステム。コールセンターや窓口を利用するより数倍時間も労力も節約できる。 もちろん、今の使い勝手抜群の形が一朝一夕で出来上がったわけではない。試行錯誤を繰り返し、ようやくたどり着いたのである。そして、Webサイト改善のアイディアやヒントを授けてくれたのは、他ならぬ実際に航空券を購入する利用者。「メールや電話などで不便な点や不満な点など様々な意見が寄せられ、それらが全てデータベースとして蓄積されている。そうした声一つひとつを真摯に受け止めて、いかに短期間で反映するかが自分たちの仕事の全てといっても過言ではない。昨年の2月と10月にもそうした膨大な要望を最大限反映させる形で、Webサイトと携帯電話サイトの抜本的なリニューアルを断行。インターネット販売の使い勝手に関してはかなりのレベルまで向上したと思う」と、大崎氏は胸を張る。
「使いやすい」が約3割
【図2】購入ステップ
特に重点的に改良したのが予約・購入ステップである。航空券販売は空席の照会から始まり、最後に予約・購入に行き着くわけだが、従来は絶対に知っていた方がいい重要情報と、念のため知っていた方がいい補完情報とが並列で記述されていたため、購入ステップを進むのに時間がかかった。それを、補完情報は別枠で表示するように工夫し、利用者が重要情報だけに目を通して感覚的かつスピーディーに次に進めるようなレイアウトに変更した。また、搭乗する便に関係ない情報は徹底的に排除したり、「次へ」というボタンを目立つ色で常に同位置に配置するなど、とにかく短時間で購入できるようにモデルチェンジを施したのだ。 その甲斐あってか、「Web Equity調査」(2004年7月実施)では、ANAのWebサイトを「使いやすい」と答えたユーザーは28.9%と3割近くに達し、同業他社サイトよりも高い数値をはじき出している。昨年2月のリニューアルがこの数値を押し上げたことは想像に難くない。「使いにくい、改良した方がいいといった意見は以前に比べると大分減った。もちろんまだゴールではなく、今後も恒常的に指摘された点を一つひとつ潰していきたい」と大崎氏は語る。 一方で、トップページの見せ方も工夫している。テンプレート化し、スクロールせずにすべての情報を表示できるように処理。また、限られたスペースの中で、各々の利用者にとって本当に必要な情報だけを提供する、パーソナライズ機能の搭載に取り組んでいるのだ。例えば、東京在住の利用者に「中部国際空港開港」というニュースは関係性が薄いので前面に押し出すような告知はせず、代わりにチケットの割引情報を提供。しかし、中部地方在住者にとっては密接に関わりのある情報なので、目立つように告知し、詳細な情報を届ける。情報をセグメントするのに必要な利用者のプロフィールは、独自の会員組織であるマイレージクラブの入会時に入力されたデータを活用する。こうして、不要な情報をカットし、逆に有用な情報は積極的に提供する、いわば情報のシェイプアップにより、より一層使い勝手を高めているのである。
“航空券購入専門サイト”からの脱皮
【図3】スマートeサービス
さて、絶えずブラッシュアップされている全日空のWebサイトだが、今後はどのような方向性を目指すのだろうか。 「ひとつは、昨年12月からスタートさせた『スマートeサービス』といったもの。このサービスでは、基本的に空港の専用機でしかできなかった搭乗手続きを、PCもしくは携帯電話でもできるようにした。今までは、購入するまでで終わっていたが、今後はこうした航空券購入後のフォローアップにも注力していく」と、大崎氏は意気込む。空港内に限られていたサービスを、ユーザビリティを考慮して、Webサイトに開放していこうというわけだ。
【図4】旅プラス
また、利用需要の喚起も当面の目標だ。今年2月から、Webサイト上に「旅プラス」というディレクトリを新たに設け、航空機の利用を促すようなツアーや旅情報の企画・提供に取り組んでいる。例えば、アウトドアを楽しみたい場合、従来のように車で何時間もかけて現地へと向うのではなく、空の便で北海道まで飛び、本格的なアウトドアライフを満喫する。あるいは、レンタカー会社と提携する事で、空の便で京都まで飛び、古都を二人乗りのカブリオレでドライブする、など。 「従来はビジネスユースや帰省用の使われ方が中心。飛行機を利用する予定の方がチケットの手配をするためだけに訪問するWebサイトだった。しかし、今後はプライベートユースを広げるために、飛行機を利用する予定のないお客様に対してどうやって需要を喚起していくか、が非常に大きなテーマ。そのために、ホテルやレストランなど他業種とも連携を密にして、飛行機を使った楽しい旅の情報を毎週提供していく」(大崎氏)。 さらに、2月からはメールやメールマガジンも大幅に強化する予定だ。「今までは基本的には全ての利用者に対して画一的なメールやメールマガジンしか送れていなかった。今後は、メールを細分化し、プロフィールなどをもとに、それぞれの利用者の嗜好性に合ったものを配信。Webサイトに誘導するような流れをつくる。そうした、こちらから積極的に働きかけるようなアクションも展開していく」(大崎氏)。
【図5】FLASH版
Webサイトのリッチ化にも取り組み始めている。空席照会〜購入は、通常のHTML版に加えてFLASH版を用意した。「これはどちらかというと、ビジネスで忙しい方よりも、時間的な余裕がある方、新しいものを好む方がターゲット。今は将来の本格展開を見越したトライアル的な位置付けだ。今後は、様々なところに寄り道していただくような仕掛けを作っていきたい。スーパーシートをテキストでビジネスライクに説明するのではなく、動的なコンテンツで疑似体験していただくなど、可能性は広がる」と大崎氏は語る。プライベートユースもターゲットとして考えている点からは、この試みも需要喚起の一環といえよう。 究極的に全日空のWebサイトが目指すところは、新たなファンクションがシームレスにつながり、航空券の購入、購入後のフォロー、搭乗後の情報提供、そしてまた購入に戻るようなサイクルを構築することだ。“航空券購入専門サイト”からの脱皮を模索するこれらの取組みが、さらにWebサイトの価値を増大するか。今後も注目されるところだ。
ANAによる、Web価値増大のための改良ポイント |
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