NPV(純現在価値)を算出するための割引率の設定はどのようにして行えばよいでしょうか。 | |
CAPMの理論的に基づく算出方法が最も有力といえます。ただし、かなり不安定な点に注意が必要です。 |
企業やブランドの価値を評価する方法にはいくつかありますが、有力な方法として当該企業が将来生み出すキャッシュフローを予測しそれを現在価値として評価するという方法があります。将来のキャッシュの価値と現在のそれとは等価ではないので、将来の名目貨幣価値を現在の実質貨幣価値に割り戻したものが現在価値(PV; Present Value)となります。キャッシュフローには営業キャッシュフローのようにプラスのものもあれば資本的支出のようにマイナスのものもありますので、それらを差し引きしたNPV(Net Present Value;純現在価値)が評価対象の価値となります。
現在の価値と将来の価値が等価でない理由の説明として、たとえば銀行に預ければ利子がつくなどの説明が用いられます。ただし、資金調達の手段は借入金以外に株主資本があります。株主資本コストは平均的な株式投資の期待リターンに加え、当該企業に対する株式投資の期待リターンがどれだけ上回る(下回る)かを、各々のばらつきの違いから算出します。支払利息の是節税効果を考慮しつつ、株主資本コストと借入金のコストを構成比によって加重平均した加重平均資本コスト(WACC; Weighted Average Capital Cost)が割引率となります。かなり簡略化した説明ですが、これがCAPM(Capital Asset Pricing Model)の理論に基づく算出方法です。
PVの計算上の特徴として、割引率の影響度がきわめて大きいということが挙げられます。事業計画をどれだけ高い精度で作成しても、割引率いかんでNPVは非常に大きく左右されます。特に、割引率が低い場合には、わずかな上下によってNPVが大きく上下し、あたかも割引率こそがNPVのキードライバーという状態が現出します。
今日のような歴史的に低水準の状況下ではリスクフリーレートは限りなくゼロに近くなります。加えて株式投資の期待収益率についても、株価下落の局面でどのように算出するかが問題となります。もっとも、市場全体の投資利回りは期間の取り方によって全く異なりますが、それはCAPMによるWACCの算定が不安定な要因となります。
このように、割引率をめぐってはたびたび困難に直面するものの、CAPMに代わる有力な方法がなかなかないのが実情です。
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