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Brand Strategy journal ブランド戦略通信

IT企業のブランド戦略

第5回:リポジショニングーIBMのブランド戦略

ビジネス戦略と市場や顧客との間でミスマッチが起こると、ブランドは危機に陥る。そのとき、経営者は新たなブランドのビジョンを提唱し、市場や顧客との間で効果的な相互作用を生み出すことによってブランドのポジショニングを変革することが求められる。

1980年代から90年代初めにかけて、IBMの業績は低迷し、1993年にはついに3年連続で赤字を計上するに至った。

この事態に直面し、同社会長に就任したルイス・ガースナーは、従来のビジョンを否定し、徹底した顧客志向、マーケット志向を打ち出した。ビジネス構造としては、従来のハードウエア偏重から脱却し、ソリューションプロバイダーとしてサービス中心の企業に生まれ変わることが志向された。

ターゲット市場については、従来はパソコンなどのB to C市場にも片足を入れていたが、より自社の高い技術力が生かせ、付加価値を高めることができるB to B市場にフォーカスすることが明確化された。パソコン事業はその後もしばらく継続されたが、最終的には2005年、ThinkPadブランドとともに中国メーカー、レノボ・グループに売却されることとなった。

同社のブランド戦略は、それまでの「固く、取り付きにくい会社」からいかにサービス志向、顧客志向が徹底された企業イメージに作り変えるか、という点にポイントが置かれた。

そのために導入されたのがe-businessのブランディングである。

コミュニケーション・キャンペーンは1997年(日本では1998年)に開始されたが、e-businessに込められたブランドのビジョンは、ビジネスプロセスの変革者、ビジネスモデルの提唱者としての同社の地位を高めようとするものであった。

そして、コミュニケーションの主なターゲットは従来の情報システム関連部門に加え、企業のトップ層に置かれた。このキャンペーンは世界的に統合されたコミュニケーション体制のもとで行われ、グローバルに行われた同社の変革を支援した。

今日では、同社の売上のおよそ半分はサービスからもたらされるものであり、ハードウエアの売上比率はおよそ4分の1近くにまで低下している(2005年度、連結ベース)。

比較的短期間に事業構造の転換を成し遂げる欧米企業の経営に、従来からあるものをなかなか捨てきれない日本企業が学ぶことは少なくないであろう。

※本コラムは、2006年11月〜2007年4月にかけて「japan.internet.com」に掲載された内容に加筆・修正したものです。

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