CSRでは法令順守が謳われることが多いようですが、企業が社会で果たすべき責任にはそれ以上のことがあるのではないですか。 | |
義務としての法令順守のほか、倫理規範順守があるべきです。 |
CSR(Corporate Social Responsibility)を推進する上で、日本では企業経営の重大リスク要因となり得る法令違反に焦点を当てることが多いようです。しかし、企業が社会に対して果たすべき役割は高次の達成目標として設定されるべきであって、最低義務としての法令順守は目標となりえません。
いくつかの原因が考えられますが、一つには基準が明確でないものよりも、チェックリスト方式で達成度を測れるものの方を日本企業が好むということがあるように思います。また、同じ基準でも社会的権威があるものを好むということもありそうです。法律、とりわけ罪刑法定主に立脚した刑事罰を含むものはその最たるものといえそうです。
逆に、根本的な問いが「企業が社会に果たす役割はどうあるべきか」から出発した規範はその企業独自のものとなります。日本企業に多いボトムアップでの策定には限界があり、どうしてもトップマネジメントによる相応のコミットメントが求められます。
しかし、実際には、経営理念レベルでは社会との調和を謳いつつ、行動規範レベルでは法令順守を中心に規定するケースが少なくないように思われます。社会との良好な関係には倫理的な部分が多く、自主的な選択が問われます。たとえば、取引先に対して高圧的態度を取らないということは規範化もできますが社員の社会常識に委ねることもできます。これに対し、取引先に不公正な取引を要求することは法令違反であり選択の余地はありません。
CSRは「企業の社会的責任」と訳されることが多いのですが、責任を刑事・民事上のリスクと捉えるとコンプライアンスを前面に出した守備的施策に終始しがちです。しかし、企業が果たすべき社会的役割と捉え、使命感から出発して先取的な位置付けを与えることには大きな意義があると考えられます。
同じ「順守」でも法令順守ではなく倫理規定順守に重点を置けば、CSRにより積極的な意味合いを持たせることができるのではないでしょうか。
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