企業のロゴマークに隣接して書かれているコーポレートスローガンやキャッチコピーなどを「タグライン」と呼びます。
タグラインは企業の理念やビジョンといった「思い」を世の中に発信するものであり、それゆえブランドイメージの刷新や経営戦略の見直しを機に新しく変更されるケースも多くあります。それではこのように発信された企業の「思い」は消費者にどのように伝わっているのでしょうか。
今回は、各企業の新旧タグラインを比較し、そのイメージについて聞いてみました。各社のタグラインは【表1】をご参照ください。)
新タグライン | 旧タグライン | |
---|---|---|
キリンビール | おいしさを笑顔に KIRIN | うれしいを、つぎつぎと。KIRIN |
日立製作所 | Inspire the Next | Here,The Future |
三菱自動車 | Drive@earth | クルマづくりの原点へ。 |
インテル | インテル。さあ、その先へ。 | インテル入ってる。 |
docomo | 手のひらに、明日をのせて。 | Docomo2.0 |
【表1】各企業の新旧タグライン
Case1:わかりやすい言葉で浸透。キリンビール
新:おいしさを笑顔に KIRIN ←旧:うれしいを、つぎつぎと。KIRIN
(単位:%) | |
キリンビール | |
---|---|
今のものの方が個性的である | 15 |
今のものの方がインパクトがある | 13 |
今のものの方がわかりやすい | 32 |
今のものの方が覚えやすい | 25 |
今のものの方がセンスが良い | 10 |
今のものの方が語感がよい | 25 |
今のものの方が企業の姿勢が伝わる | 5 |
今のものの方が好感がもてる | 20 |
過去のものの方が良かった | 15 |
まずは創業100周年を迎えた2007年に「おいしさを笑顔に KIRIN」をコーポレートスローガンとして打ち出したキリンビール。現在ではキリンビバレッジなどグループ企業も統一スローガンとして掲げています。
「今のものの方がわかりやすい」(32%)、「今のものの方が覚えやすい」(25%)、「今のものの方が語感がよい」(25%)、さらに「今のものの方が好感がもてる」(20%)と現在のスローガンは広く受け入れられているようです。「さらなる『おいしさ』を追求し、『新しいよろこび』を提案」していこうという企業姿勢が「笑顔に」という三文字に集約され、消費者にもわかりやすいものになっています。
また同社のCMではこのタグラインが冒頭で表示されるようになりました。こうした視覚への訴えかけもスローガン浸透の一助を担っていると言えるのではないでしょうか。
Case2:余韻に何かを期待させる日立製作所
新:Inspire the Next←旧:Here,The Future
(単位:%) | |
日立製作所 | |
---|---|
今のものの方が個性的である | 13 |
今のものの方がインパクトがある | 31 |
今のものの方がわかりやすい | 10 |
今のものの方が覚えやすい | 25 |
今のものの方がセンスが良い | 20 |
今のものの方が語感がよい | 27 |
今のものの方が企業の姿勢が伝わる | 9 |
今のものの方が好感がもてる | 9 |
過去のものの方が良かった | 21 |
続いて「これからの時代や社会に新しい息吹を吹き込んでいくのは私たちである」という意味をもつ「Inspire the Next」の日立製作所です。「今のものの方がインパクトがある」(31%)、「今のものの方が語感がよい」(27%)、「今のものの方が覚えやすい」(25%)、「今のものの方がセンスがよい」(20%)などの項目で高い評価となりました。その語感から勢い、力強さといった印象を受けるとともに「Next」に続く「何か」を無意識のうちに想像し、期待感を残すフレーズになっているのかもしれません。
一方、「過去のものの方が良かった」も21%と一定の評価を得ています。過去の「Here,The Future」は「日立を見れば未来がわかる」といった意味合いですが、現在のタグラインと同様、未来への期待を感じさせるとともに、「日立は未来を先んじている」という自社への自信を覗かせるフレーズにもなっています。
Case3:短いセンテンスに地球規模の企業姿勢をアピール。三菱自動車
新:Drive@earth←旧:クルマづくりの原点へ。
(単位:%) | |
三菱自動車 | |
---|---|
今のものの方が個性的である | 17 |
今のものの方がインパクトがある | 17 |
今のものの方がわかりやすい | 18 |
今のものの方が覚えやすい | 24 |
今のものの方がセンスが良い | 24 |
今のものの方が語感がよい | 25 |
今のものの方が企業の姿勢が伝わる | 17 |
今のものの方が好感がもてる | 15 |
過去のものの方が良かった | 24 |
2008年6月に日本語から英語のタグラインに変更した三菱自動車。新しいコミュニケーションワードは「クルマを通じて、人・社会・地球との共生を目指し、走る歓びと地球環境への配慮を両立させた独自のクルマづくりに取り組む」企業姿勢を表現した「Drive@earth」です。
「今のものの方が語感がよい」(25%)、「今のものの方が覚えやすい」(24%)、「今のものの方がセンスが良い」(24%)となっています。「@」という語が視覚的にも聴覚的にも軽快な印象を与えこのような結果につながっているのかもしれません。CMで流れる女優宮崎あおいさんの穏やかで歯切れのよい声が耳触りよく残っている方も多いのではないでしょうか。
一方で以前の「クルマづくりの原点へ。」は社内公募より選ばれたもの。わかりやすく身近に感じられるからでしょうか、「過去のものの方が良かった」も24%と、現行の「Drive@earth」同様に高い評価を受けているようです。
Case4:インテルは接触度合いが支持率に反映
新:インテル。さあ、その先へ。←旧:インテル入ってる(スローガン。タグラインはIntel Inside)
(単位:%) | |
インテル | |
---|---|
今のものの方が個性的である | 5 |
今のものの方がインパクトがある | 4 |
今のものの方がわかりやすい | 7 |
今のものの方が覚えやすい | 6 |
今のものの方がセンスが良い | 3 |
今のものの方が語感がよい | 2 |
今のものの方が企業の姿勢が伝わる | 12 |
今のものの方が好感がもてる | 4 |
過去のものの方が良かった | 64 |
かつて「Intel Inside」が使われていたインテル。和訳は「インテル入ってる」です。「過去のものの方が良かった」が実に64%と他を圧倒する結果となりました。
同社は、「Intel チャネルブランディングプログラム」と銘打ち、Intel CPUを採用したパソコンメーカー各社がCMでロゴやジングル(サウンドロゴ)を流すとその広告費の一部をIntelが負担するという画期的なブランディング戦略をとりました。これにより消費者は各メーカーのCMで横断的に「Intel」のロゴやジングル(サウンドロゴ)を見聞きするようになり、さらにキャッチフレーズである「Intel Inside」や、和訳「インテル入ってる」の軽快で覚えやすい語感も手伝って、その名は一躍有名になったのです。
2006年1月より「インテル。さあ、その先へ。」と日本ではタグラインそのものも日本語となりました。インテルによれば「技術や教育、社会的責任、製造技術など数々の領域で常に現在の課題に立ち向かい、その先にある可能性を発見し、推進すること」をミッションとし、それをわかりやすく訴求するためのスローガンであるとのことです。しかし、この「思い」が浸透するにはまだ時間がかかるのかもしれません。
Case5:NTTドコモ(ブランドスローガン)
新:手のひらに、明日をのせて。←旧:DoCoMo2.0
(単位:%) | |
docomo | |
---|---|
今のものの方が個性的である | 11 |
今のものの方がインパクトがある | 11 |
今のものの方がわかりやすい | 34 |
今のものの方が覚えやすい | 9 |
今のものの方がセンスが良い | 15 |
今のものの方が語感がよい | 10 |
今のものの方が企業の姿勢が伝わる | 20 |
今のものの方が好感がもてる | 23 |
過去のものの方が良かった | 15 |
新規契約獲得から既存顧客重視への戦略転換に伴いブランド戦略を一新したNTTドコモ。2008年4月にロゴの変更を含む大々的なコーポレートブランドの刷新が発表されました。
「今のものの方がわかりやすい」(34%)、「今のものの方が好感がもてる」(23%)、「今のものの方が企業の姿勢が伝わる」(20%)、「過去のものの方がよかった」(15%)と現行タグラインを支持する割合が高くなっています。以前の「DoCoMo2.0」は既存の機能やサービスを1.0のバージョンから、2.0にステップアップするという姿勢を表現した言葉です。当時盛んに用いられていたマーケティング用語の「Web2.0」も意識したものになっているようですが、今となっては少々時代を感じさせてしまう表現でもありますね。また、人によっては意味するところがわかりにくいこともあったかもしれません。
一方、現在の「手のひらに、明日をのせて。」は「一人ひとりの手の中で、その毎日を一緒に歩き、自由な明日へと導く、新しい扉になろう」とする姿勢が伝わるやさしさが感じられるフレーズになっているのではないでしょうか。
その後ドコモはそれまでの「90Xi」、「70Xi」といった端末シリーズから、消費者の価値観やライフスタイルに合った携帯電話が選べる4つのシリーズに一新しました。タグラインの変更のみならず、ロゴ、さらには製品シリーズの刷新といったブランドそのものの変革が消費者に大きなインパクトを与え、それが概ね受け入れられている結果になっていると言えるのかもしれません。
今回の調査では奇をてらったものよりも語感がよく、誰にでもわかりやすい表現であるものが評価される結果となりました。
日ごろ街中やテレビCMなどで目にするタグライン。最近ではコーポレートサイトの企業情報やニュースリリースでブランドビジョンやタグラインの制定に至る背景などを紹介し、詳しくその「思い」を伝える企業も増えています。その中身を覗いてみると商品パッケージやCMだけではわからない企業の顔を知ることができ、新たな親近感が湧いてくるかもしれません。
調査概要
全国の10代〜50代のインターネットユーザーから回答を得た
サンプル数 | 100 |
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調査期間 | 2009年3月6日〜3月7日 |
調査内容 | 5つの企業のタグラインについて新旧比較を含めたイメージを聞いた。 |
調査対象 | 5つの企業のタグライン・キャッチフレーズ・スローガン(以下新・旧の順【キリンビール】おいしさを笑顔に KIRIN・うれしいを、つぎつぎと。KIRIN/【日立製作所】Inspire the Next・Here,The Future/【三菱自動車】Drive@earth・クルマづくりの原点へ。/【インテル】インテル。さあ、その先へ。・Intel Inside(インテル入ってる)/【NTTドコモ】手のひらに、明日をのせて。・DoCoMo2.0)に対し、9つのイメージ項目(今のものの方が個性的である/今のものの方がインパクトがある/今のものの方がわかりやすい/今のものの方が覚えやすい/今のものの方がセンスが良い/今のものの方が語感が良い/今のものの方が企業の姿勢が伝わる/今のものの方が好感がもてる/過去のものの方が良かった)の中から複数回答式で回答を得た。 |