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第26回:合併・買収による社名変更のイメージ調査

近年、大企業の合併・買収が数多く見られます。08年末には、Panasonicが三洋電機との資本・業務提携を締結するという報道がありました。M&Aサービス大手のレコフによると、企業のM&A件数は、1996年以降に急増し、2005年には2700件に達し、約10年間で5倍以上となりました。08年は約2400件と、若干減少傾向にはあるものの依然として高い水準で、M&Aの合計金額では約12兆4300億円と、前年を上回る水準となっています。

合併後の新社名から見える2つのパターン

さて、合併・買収が盛んとなった日本ですが、その際に問題の1つとなるのが、合併・買収後の社名です。社名の付け方には大きく分けて2つの方法があるようです。(1)旧社名をつなぎ合わせるパターン、(2)旧社名を残さず、全く新しい社名を付けるパターンの2つです。

(1)は、愛着のある社名を残したいとするお互いの考えを尊重した結果といえるでしょう。消費者にとっても、継続性があるのでわかりやすいかもしれません。しかし、つなぎあわせるために長々とした社名になることもしばしば。言いにくかったり、新鮮味がなかったりすることもあるかもしれません。

(2)は、合併を機会に心機一転、新しく一歩を踏み出すイメージを重視した戦略といえます。しかし、全く違うイメージを打ち出すことはそれなりのリスクも伴います。こうしてみると(1)にも(2)にもそれぞれ一長一短があるようです。

そこで今回は、合併・買収後に変更された社名に対し、消費者がどのようなイメージを持つのか調査しました。近年の事例について、合併・買収後の社名が「なじみやすいかとうか」を聞き、ランキング化してみました。

コンパクト&バランスが鍵 ‐言葉自体のなじみ深さも重要‐

まずは、新社名がなじんだケースから見ていきましょう。「すぐに新名称がなじんだ」と「時間はかかったが新名称になじんだ」という回答を合計したポイントが最も高かったのが、「三井住友銀行」です。同事例は、旧社名を残す(1)のパターンによるネーミングです。両行ともに短い社名だったため、つなぎ合わせても長くならず、シンプルにまとまったのが、なじみ度が高かった理由でしょうか。両行ともに財閥系で、名称を並べてもバランスが良く、違和感がなかったことも奏功したかもしれません。

一方2位の「みずほ銀行」は、三井住友銀行とは異なる(2)のパターンによるネーミングです。旧社名が日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行と、3行もある上に長い名称もあり、つなぎ合わせるという選択肢は最初からなかったのかもしれません。そこで用いたのが「みずほ」という名称。「みずほ」は「みずみずしい稲穂」のことであり、日本書紀には日本の美称として「瑞穂国」という記述が見られます。つまり、日本を代表する銀行であることを暗に示しているわけです。伝統的な雰囲気、爽やかさ、語感の良さ、平仮名による親しみやすさなどが全く違った名称となっても「なじめる」という結果につながったといえます。

その他、3位の「損保ジャパン」も(2)のパターンを用いた成功例です。安田火災海上保険、日産火災海上保険という2社の合併で、「安田日産火災海上保険」という選択肢もあったことでしょう。しかし、そこをあえて「損保」という業界を表すなじみのある用語と、「ジャパン」というなじみのある英語を組み合わせた和洋折衷の新社名を採用しました。新鮮さを醸しながらも、なじむこともできる絶妙のネーミングといえるでしょう。

(単位:pt)
新名称 旧名称 すぐに新名称がなじんだ 時間はかかったが新名称になじんだ 新名称になじんだ合計
1 三井住友銀行 三井銀行、住友銀行 61 20 81
2 みずほ銀行 日本興業銀行(興銀)、富士銀行、第一勧業銀行 44 26 70
3 損保ジャパン 安田火災海上保険、日産火災海上保険 56 9 65
4 イオン ジャスコ 37 22 59
5 富士フイルム 富士写真フイルム 55 1 56
6 新日本石油 日本石油、三菱石油 36 13 49
7 三菱東京UFJ銀行 東京三菱銀行、UFJ銀行 28 18 46
8 National NAiS 42 1 43
9 ゼファーマ(大衆薬品) 山之内製薬、藤沢薬品 28 14 42
10 セブン&アイ・ホールディングス セブン・イレブンジャパン、イトーヨーカ堂、デニーズジャパン 21 16 37
11 レナウン レナウン、ダーバン 33 3 36
12 ウィルコム DDIポケット 25 7 32
13 東京海上日動火災保険 東京海上火災保険、日動火災海上保険 10 11 21
14 アステラス製薬(医家向け薬品) 山之内製薬、藤沢薬品 9 9 18
15 JALグループ JAL、JAS 12 3 15
16 タカラトミー タカラ、トミー 8 6 14
17 新日鉱ホールディングス ジャパンエナジー、日鉱金属 8 4 12
18 住生活グループ INAX、トステム 5 4 9
19 タビオ ダン 2 1 3
20 双日 ニチメン、日商岩井 2 0 2
【表1】新社名に“なじめる”ランキング

※背景色ありは旧社名踏襲型、なしは旧社名非継承型

社名が長いと「なじみにくい」 ‐一目で理解できないのも要因に‐

逆に、新社名がなじみにくいケースもあるようです。「今でも旧名称の方がなじみがある」という回答が最も多かったのが、「セブン&アイ・ホールティングス」です。社名にグループの中核企業であるセブン・イレブンジャパンの「セブン」を残しているものの、一見全く違った雰囲気の社名となっていることがなじむのが難しい理由かもしれません。また、すべて英語であることも理由の1つといえるのではないでしょうか。

「アステラス製薬」は、旧社名の山之内製薬と藤沢薬品が全く入ってなく、さらに意味が伝わりにくい外来語を使っていることが要因といえるでしょう。

一方、「三菱東京UFJ銀行」は、旧社名を純粋につなぎ合わせただけです。パターンとしては三井住友銀行と同じですが、なぜ「旧名称の方がなじみがある」と判断されたのでしょうか。それは新社名の長さに関わりがあるのかもしれません。また、意味が捉えにくいアルファベットが漢字の後に続いていることに違和感を覚える人が多かったのかもしれません。いずれにせよ、少しの変化でなじめるか・なじめないかの明暗が分かれることは実に興味深いところです。

「双日」は、旧社名に2つの「にち」があることから(ニチメンの「ニチ」、日商岩井の「日」)名付けられたようです。しかし、この言葉は元々の日本語にはない造語である上、旧社名からも連想するのが難しく、説明されて初めて分かる名称です。この「伝わりにくさ」が「なじみにくさ」につながっていると言えるのではないでしょうか。

また「東京海上日動火災保険」は、損保ジャパンとは逆に、つなぎ合わせるパターンで処理したケースですが、これも長さが原因なのかあまりなじみやすくはないようです。

(単位:pt)
新名称 旧名称 今でも旧名称の方がなじみがある
1 セブン&アイ・ホールディングス セブン・イレブンジャパン、イトーヨーカ堂、デニーズジャパン 52
2 アステラス製薬(医家向け薬品) 山之内製薬、藤沢薬品 45
3 三菱東京UFJ銀行 東京三菱銀行、UFJ銀行 42
4 双日 ニチメン、日商岩井 41
5 タカラトミー タカラ、トミー 38
6 JALグループ JAL、JAS 36
7 東京海上日動火災保険 東京海上火災保険、日動火災海上保険 36
8 ゼファーマ(大衆薬品) 山之内製薬、藤沢薬品 31
9 住生活グループ INAX、トステム 30
10 イオン ジャスコ 28
11 ウィルコム DDIポケット 26
12 National NAiS 24
13 新日本石油 日本石油、三菱石油 23
14 新日鉱ホールディングス ジャパンエナジー、日鉱金属 22
15 みずほ銀行 日本興業銀行(興銀)、富士銀行、第一勧業銀行 18
16 レナウン レナウン、ダーバン 14
17 富士フイルム 富士写真フイルム 13
18 損保ジャパン 安田火災海上保険、日産火災海上保険 12
19 三井住友銀行 三井銀行、住友銀行 10
20 タビオ ダン 1
【表2】“旧社名のほうがなじみがある”ランキング

※背景色ありは旧社名踏襲型、なしは旧社名非継承型

合併後の新社名がなじめるかなじめないかは、その後の消費者の購買心理にも影響する重要な課題といえます。「日本語にせよ英語にせよ、社名に使う個々の言葉自体になじみがあるかどうか」「新鮮さが感じられるか」「長くなっていないか」「パッと見てその意味が伝わってくるか」などが社名変更のポイントといえそうです。

調査概要

全国の18〜59歳男女のインターネットユーザーから回答を得た

サンプル数 400
調査期間 2006年5月11日〜5月12日
調査内容 合併・買収により社名変更を行った20社の新社名についてなじみ度を聞いた。
質問項目 対象社名:三井住友銀行/みずほ銀行/損保ジャパン/イオン/富士フイルム/新日本石油/三菱東京UFJ銀行/National/ゼファーマ(大衆薬品)/セブン&アイ・ホールディングス/レナウン/ウィルコム/東京海上日動火災保険/アステラス製薬(医家向け薬品)/JALグループ/タカラトミー/新日鉱ホールディングス/住生活グループ/タビオ/双日
評価方法:上記の各企業の名称について、「今でも旧名称の方がなじみがある」「すぐに新名称がなじんだ」「時間はかかったが新名称になじんだ」「名前が変わったことを知らなかった」「どちらともいえない。わからない」で評価。
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