かつて、消費税の前身である売上税の導入を巡ってある新聞社が行った世論調査に対して、その政策の実現を支援するためにあえて賛成者が増えるような質問の仕方をしていたという疑問が提起されました。調査には必ず前提条件があって行われるものですが、それを受け止める側には様々な立場の人がいますので、こうしたバイアスに対する批判はつきものという感はあります。とはいえ、質問の仕方以外の条件は全く同じ別の調査が並行して行われることはありませんので、調査結果がどの程度左右されているかは測りかねるところがあります。
そこで、今回は、質問の仕方によって回答がどれくらい左右されるかを、質問の仕方以外の条件を同一にした2パターンの調査を同時に行うことによって検証してみました。
ちなみに質問以外の条件としては対象者(性別、年代、地域など)、調査時期、調査媒体などがあります。念のため、対象者を同一条件で選んだということは対象者が同一人物であるということとイコールではありません。対象者を同一条件で選ぶとは、同じ母集団から対象者をランダムに抽出することですが、このとき2パターンの調査で対象者が重複しないようにする必要があります。重複すると、2つの類似する調査に同時期に回答したということ自体がバイアスを生む要因となってしまいます。題材は消費税の増税を選びました。
パターン1:バイアスがかかりにくい調査票
まず、基本的なものとしてバイアスがかかりにくい質問の仕方からなる調査票を作ります。
設問文はシンプルに「あなたは消費税の増税に賛成ですか(ひとつだけ)」というものです。
これに対応する選択肢もシンプルで、以下のいずれかから一つを選択する形式とします。
「賛成」
「どちらかといえば賛成」
「どちらかといえば反対」
「反対」
「わからない」
選択肢は賛成から反対まで段階があり、賛成、ないしは反対の程度によって傾斜がつけられています。最後の選択肢の「わからない」は一種の逃げ場です。賛成か反対かを無理に選ばせようとするとバイアスを生む要因となるので、それを避けるために挿入します。「どちらかといえば」という言葉を伴った選択肢にも同様の配慮があります。
パターン2:バイアスがかかりやすい調査票
次に、意図的にバイアスがかかりやすくした調査票を準備します。
設問文は「あなたは消費税の増税をどのように考えますか(ひとつだけ)」と少しひねってみます。賛成か、反対か、という風にはっきり白黒つけるより印象が緩和されますので、ひょっとすると意見表明しやすくなるかもしれません。
選択肢としては以下のものを用意しました。
「社会保障のためにやむを得ない」
「歳出の無駄を徹底的に無くした上で、それでも足りない分を補うのなら仕方ない」
「国家財政が破綻するよりはましだ」
「到底容認できない」
「あてはまるものはない」
増税にはストレートに賛成しかねる人でも、色々と条件がつけば「仕方ない」と賛成(?)するかも知れないという算段です。
また、反対は「到底容認できない」という強い調子の表現にしました。
パターン1では「わからない」という逃げ場を用意しましたが、これに対応するものとして今度は「あてはまるものはない」というものを用意しました。「到底容認できない」わけではないがどちらかといえば反対の人も、逆に「仕方ない」どころか積極的に賛成する人も、あるいは選択肢として掲げられたもの以外の条件付きで賛成の人も、もちろんパターン1の「わからない」に該当する人も、この選択肢でカバーしようというわけです。
パターン2では「86%の人が消費税増税を容認」
こうして、2種類(パターン1、パターン2)の調査票を作成し、他の条件を同一にして調査を実施しました。
その結果、バイアスがかかりにくいパターン1では消費税増税の賛成者(「賛成」+「どちらかといえば賛成」)が27%、反対者(「反対」+「どちらかというと反対」)が70%と、シンプルな意見表明では反対者が圧倒的に多いことが分かります。
一方、バイアスがかかりやすいパターン2では、賛成者(「やむを得ない」+「仕方ない」+「~よりまし」)は何と86%となりました。また、はっきり反対の意思を示す「到底容認できない」は13%しかいませんでした。
ここで、態度表明を保留した人について見てみます。素直な選択肢が並ぶパターン1では、「わからない」を選択した人は3%でした、これに対し、かなり癖のある選択肢が並ぶパターン2では、「あてはまるものはない」を選ぶ人が増えると思いきや、たまたまいくつか挙げた賛成する理由が多くの人の意見を代表するものだったのでしょう、逆に1%と減少しています。(もっとも、統計的なことを考慮すると有意な違いが見られなかったという方が正しそうです。)
世論調査の結果を見るには注意が必要
このように同じ事柄について賛成、反対の意見表明を求めても、質問の仕方によって回答は全く異なるものとなるのです。
「パターン2は極端にバイアスをかけた質問になっているからじゃないか」という声が聞こえてきそうです。今回はわざとそうしたのですが、世論調査には多かれ少なかれバイアスを誘発する要素が含まれていることが少なくありません。
試しに消費税に関する世論調査を過去の新聞記事などで探してください。そこには「消費税引き上げ『必要』○○%」などの見出しが踊っています。しかし、内容をよく読むと、「財政再建のために」とか「社会保障制度を維持するために」などの「条件」がついていることが少なくありません。
新聞記事では簡潔でインパクトがある見出しをつける必要がありますので、このような見出しになることがありますが、本文にはなぜそのような結果になったかの背景があります。私たち自身も少しだけ注意深い読者になって背景説明の部分を見逃さないようにすると、これまで以上に世論調査の結果が面白く読めるかも知れません。
調査概要
全国のインターネットユーザー(20歳以上/男女)から回答を得た
サンプル数 | 100s |
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調査期間 | 2011年01月05日(水) |
調査対象 |
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