どの企業にも創業には物語があります。とりわけ、苦労して新しい製品を生み出す物語には多くの夢とさまざまなドラマがあり、多くの人が共感を覚えるものと思われます。今回は歴史ある会社の創業時のストーリーを取り上げ、その印象を尋ねて見ました。
好感と信頼が増し、企業の良さが再認識されたKINCHO
まずは1885(明治18)年創業のKINCHOです。1890(明治23)年、金鳥かとり線香創業者の上山英一郎氏は除虫菊を使った新たな殺虫方法を探していました。それまでに火鉢や焚き火に除虫菊をくべる方法を考えたのですが、不便だったので普及にまでは至りませんでした。そんなある日、仏壇線香屋の息子と会い、線香に除虫菊の粉末練りこむというアイデアを得ました。しかし、商品化したものの、棒状の製品の効果や持続時間に課題が残りました。そんなある日、妻が言った「渦巻き状にしたらどうか」という言葉をヒントに改良を重ね、1902(明治35)年ついに今の形の製品が完成しました。
このストーリーを読んだ方の多くは好感が増し(32%)、信頼が増した(20%)と回答しています。さらに「この企業の良さを再認識した」(16%)を含め、これら3つの項目で同社は最も高い印象を残す結果となりました。新商品を構想してから10年以上の歳月をかけて開発したという息の長さもさることながら、家族みんながそれぞれアイデアを出し、それが一つの商品として結晶したストーリーが多くの共感を呼んだようです。
企業の夢や願いを感じ、親しみが増した江崎グリコと森永製菓
次は1919(大正8)年創業の江崎グリコと1899(明治32)年創業の森永製菓です。
江崎グリコは大正11年、子供たちの健康のために栄養素の高いグリコーゲンを食べやすいお菓子にした「グリコ」を発売しました。育ち盛りの子供にとっては、「食べること」と「遊ぶこと」は二大「天職」ともいえることです。そこで、栄養補給源となる「グリコ」を食べながらおもちゃで遊べば、身体も心も健やかに育つという発想から「オモチャ入りグリコ」が生まれました。
森永製菓は1913(大正2)年、ブリキ缶入り「ミルクキャラメル」を発売しました。それまでのミルクキャラメルは欧米式仕込みで当時の日本人の嗜好に適さなかったばかりでなく、湿度の高い日本の気候にも合いませんでした。そこで、「日本の風土に合った、日本人のためのキャラメルを作ろう」と考え、品質を改善し、また流通段階での衛生面にも配慮して1粒ずつワックスペーパーに包みました。
いずれも製品の主なユーザーになる子供たちに対する思いが感じられるストーリーで、回答者の方も、「企業の夢や願いを感じた」という項目で江崎グリコ(35%)、森永製菓(26%)がそれぞれ1位と2位に、また「親しみが増した」でも江崎グリコ(47%)、森永製菓(39%)がそれぞれ1位と2位になりました。
技術力を感じ、革新的なイメージを持たれた味の素
続いて1908(明治)41年創業の味の素です。東京帝国大学(現東京大学)教授の池田菊苗博士は「料理に昆布を使うとなぜうまくなるのか」という疑問から昆布の成分である「グルタミン酸」がうまさの正体であることを突き止めました。博士はうまみ味調味料グルタミン酸ナトリウムの製造法特許を取得し、鈴木三郎助氏に事業化を依頼、1908(明治42)年、「味の素」として発売することになりました。
この話に対しては、「技術力を感じた」(35%)という人が非常に多くいました。また、それに伴い、「革新的なイメージを持った」(17%)も5社の中で最も多くいました。古く明治の時代に遡る話ですが、その時代の話であっても「革新的」というイメージにつながることは注目すべき事実かと思います。
企業理念が感じられ共感を呼んだキユーピー
最後は1919(大正8)年創業のキユーピーです。アメリカでマヨネーズを知った創業者は「アメリカ人の体格がいいのは栄養価の高い食べ物にある。日本にも紹介したい。」と考えました。当時は和食が当たり前の日本でさらに「鶏の飼料がよくなく卵の栄養価が低い」「植物油は粗悪品が多い」等の悪条件が重なりましたが、鶏卵業者との取り組みや製油会社への品質指導などで解決し、またいく通りもの成分配合を試みて、日本人好みに合わせた黄身だけを使った滑らかな食感のマヨネーズ開発に漕ぎつけました。1925(大正14)年にはキユーピーマヨネーズとして発売に至りました。
この話を読み、「企業の理念を感じた」(29%)方が今回取り上げた5社の中で最も多いという結果になりました。また、「この企業の興味を持った」(14%)、「誰かに伝えたいと思った」(13%)も5社中最多となりました。このように、当時のキユーピーの物語は多くの人に今日の同社の企業理念につながるものを感じさせるものであるようです。
企業の創業当時のさまざまなストーリーは好感度のアップや企業理念の理解につながることはもちろんのこと、技術力や革新性のイメージなどきわめて今日的と思われるテーマに対しても消費者は大きく反応することがわかりました。世の中には技術力や革新性を訴求したいがゆえにその会社が誇るべき古い時代の貴重な物語を封印するとはいかないまでもなるべく表に出すことを控える会社もあるかもしれませんが、むしろ積極的に知ってもらうよう努めたほうが好ましい結果につながることが少なくないのではないでしょうか
調査概要
全国20歳以上男女のインターネットユーザーから回答を得た
サンプル数 | 100 |
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調査期間 | 2011年12月5日 |
調査対象 | KINCHO、味の素、森永製菓、江崎グリコ、キユーピー それぞれの出所は以下の通り。 KINCHO (http://www.kincho.co.jp/kaisha/japanese/ayumi/ayumi01.html) 味の素 (http://www.ajinomoto.co.jp/company/history/) 森永製菓 (http://www.morinaga.co.jp/company/rekisi.html) 江崎グリコ (http://www.glico.co.jp/corp/corp05_1.htm) キユーピー (http://www.kewpie.co.jp/company/corp/info/02_main.html) 参考文献 ・竹内書店新社編集部 2001年『超ロングセラー大図鑑』竹内書店新社 ・成美堂出版編集部 2010年 『ロングセラー商品の舞台裏』 成美堂出版 |
質問方法 | 被験者にそれぞれの内容を提示し、その印象を尋ねた。 |