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第93回:スポーツ観戦に対する意識について

新型コロナ問題発生以降、感染の拡大を防止するべく提唱された「新しい生活様式」の実践。スポーツ観戦においても「新しい応援スタイル」が要請され、時に無観客を含む収容人数の規制や、観戦者に対してもマスクの着用や声援禁止の義務化など様々な措置が取られてきました。ただ、このような状況下においても、人々は東京五輪での日本人選手の活躍や大谷翔平選手のホームラン王争いに熱狂し、また高校球児など若い選手のひたむきさに感動をもらっています。
たとえ非常時であっても人々の心を打ってやまない「スポーツ」。今回はスポーツ観戦について人々の意識を尋ねてみました。

応援しているスポーツ

【図1】は応援しているスポーツチームやクラブについて尋ねた結果です。

野球日本代表を応援している人の割合が最も高く、およそ3割の回答を得ました。東京五輪でアメリカを制し1984年のロサンゼルス大会以来37年ぶり、悲願の金メダルを獲得した侍ジャパン、その雄姿を多くの人が見届けたことと思います。今回の五輪を機に応援するようになったという人もいるでしょう。
次いで多かったのはセ・パ両リーグ(プロ野球)です。ペナントレースが終わりセ・パ両リーグの上位3チームによって行われるクライマックスシリーズ、さらに日本一を決める日本シリーズの時期はプロ野球ファンでなくてもなんとなく気になるという人も多いかもしれません。
セ・パ両リーグに僅差で続いたのがサッカー日本代表です。東京五輪では準決勝で惜しくもスペインに敗退しましたが、来年にはカタールワールドカップを控えアジア最終予選もいよいよ佳境です。海外プロリーグで活躍する選手も招集されるフル代表のメンバー発表は、多くの人の気になるところではないでしょうか。彼らのようになりたいとサッカーボールを蹴り始める子供たちも多いことでしょう。
さらにJリーグ(日本プロサッカーリーグ)、バスケットボール日本代表、海外のプロサッカーリーグと続きました。

応援している理由

ここからは、応援している人が多かった野球日本代表、セ・パ両リーグ、サッカー日本代表、Jリーグに焦点を当ててみていきましょう。
【図2】はチームやクラブを応援している理由を尋ねたものです。*グラフの数値ラベルは20%以上回答がある項目のみ表示。

野球日本代表は「好きな選手がいるから」が32.0%と最も高くなっています。また「過去に試合を見て面白かったから」「スター選手が揃っているから」も高い数値となりました。
なお「スター選手が揃っているから」はサッカー日本代表を応援する理由としても大きいようです。世界、国内で活躍する選手たちが一堂に会する日本代表。競技の面白さもさることながら、トップ選手が国を背負って奮闘する姿が見たいと思う人が多いのではないでしょうか。

一方、セ・パ両リーグやJリーグなど国内プロリーグのクラブを応援する理由としては「チームやクラブの本拠地が自分の住んでいる地域に近いから」「チームやクラブの本拠地が自分の生まれた地域だから」などが高く、地域との結びつきが強いことがわかります。Jリーグについては「過去に選手などとの交流イベントに参加し、親しみがあるから」と回答した人も多く、クラブのお膝元、いわゆる「ホームタウン」で開催されるスポーツ教室など、選手との交流も応援の動機のひとつになっているのかもしれません。

現地での応援経験、今後の意向

続いてドームやスタジアムなど現地での観戦経験と今後の観戦意向についてみてみましょう。【図3】

野球日本代表、セ・パ両リーグについては3割強、サッカー日本代表、Jリーグは3割弱に今後の観戦意向があるようです。
ただし、セ・パ両リーグ、Jリーグは日本代表と比べ「観戦したことはあるが、今後観戦することはないと思う」の割合も高くなっています。

現地で観戦しない理由

では、観戦に消極的な理由はどこにあるのでしょうか。
【図4】は「観戦したことはあるが、今後観戦することはないと思う」「観戦したことはなく、今後観戦することはないと思う」と回答した人にその理由を尋ねた結果です。(「このスポーツに関心がない」「結果だけわかればいい」と回答した人はベースから除く)*グラフの数値ラベルは10%以上回答がある項目のみ表示。

「時間がない」「開催地が遠い」「チケット代が高い」などの回答が多いですが、その他の項目も一定の数値が出ています。
セ・パ両リーグは「以前は好きだったが、最近関心を失っている」が、サッカー日本代表、Jリーグは「試合が面白くない、盛り上がらない」が高く、競技の面白さや魅力が十分伝わっていない可能性があります。
また「チケットの入手方法や交通手段、観戦マナーなどを調べるのが面倒」という人も比較的多くなっています。各種メディアなどを通じて試合を告知する際、またクラブ・チームの公式サイトなどで情報提供する際には、チケット購入から現地観戦までのステップを分かりやすく伝え、現地観戦に関心がある人のハードルを下げる必要もあるのかもしれません。

テレビや有料放送、動画配信サービスでの試合観戦状況

それでは現地観戦よりも気軽に見られるテレビなどの観戦状況はどうなっているでしょうか。
【図5】はテレビや有料放送、動画配信サービスなどでの試合の視聴状況を尋ねたものです。

コロナ禍で地上波はもとより、有料放送や動画配信サービスを利用するようになった人も多いかもしれません。野球日本代表、セ・パ両リーグでは「見る機会が増えた」「最近見るようになった」人が全体の2割を超え、見る機会が増えた人が減った人よりも多くなっています。やはり東京五輪の金メダル獲得が影響しているのかもしれません。

一方、サッカー日本代表やJリーグにおいては逆に「以前より見る機会が減った」の割合が「見る機会が増えた」という人より高いことがわかります。
特にサッカー日本代表の「以前から見ているが、以前よりも見る機会が減った」の17.5%は、「増えた」と回答した人の割合11.1%を大きく上回る結果となりました。サッカー日本代表の夢の舞台といえばワールドカップですが、ドーハの悲劇を乗り越え、初の本戦出場となったフランス大会から20年余り、日本代表は6大会連続本戦進出と常連になりつつあるものの未だベスト16の壁は超えられておらず、なかなか次のステージが見えてこない停滞感が人々の関心を遠ざけているのかもしれません。2022年カタール大会に向けたアジア予選はアウェイの試合が地上波で放映されないなど、メディアも盛り上がりに欠け、確かに代表戦だけを見るような一般の人々については、フランス大会当時のような熱狂は薄れつつあるように感じます。

「見る機会が減った」「見ていない」理由

ここで、テレビや有料放送・動画配信サービスを「見る機会が減った」「見ていない」理由を見てみましょう(【図6】)。
(「このスポーツに関心がない」「結果だけわかればいい」と回答した人はベースから除く)*グラフの数値ラベルは10%以上回答がある項目のみ表示。

いずれも「時間がない」が最も多いですが、それ以外を見るとJリーグは「地上波でやっていない」の割合が特に高くなっています。Jリーグでは2017年よりJ1~J3までの全てのリーグ戦をDAZNで配信しています。放映される試合が限られていたそれ以前と比べ格段に視聴環境は改善しましたが、それでも、地上波でやっていなければ見ないという層は多いようです。
また、サッカー日本代表では「試合が面白くない、盛り上がらないから」が高くなっています。

スポーツを盛り上げるには

ではスポーツを盛り上げるためにはどのような施策が必要なのでしょうか。下記は「どうしたらスポーツを応援したくなるか」を自由回答で尋ねた結果です。
まず選手や試合内容についての意見を見てみましょう。

応援したくなる理由としては「スター選手が出現する」など、カリスマ的選手の存在が大きいようです。日本でも野球ではイチロー選手や大谷翔平選手、サッカーでは中田英寿選手や本田圭佑選手など時代時代で様々なスター選手が排出されていますが、そういった選手の存在が観戦のきっかけとなり、そのスポーツを好きになるケースも多いのではないでしょうか。
また、競技スポーツではやはり「試合の面白さ」や「強さ」も重要なようです。「感動する試合を見たら応援したくなる」「強くなったら応援したくなる」などの声が聞かれました。

続いてプロモーションに関する意見を見てみましょう。

まず、試合放映については「地上波でやってほしい」という声が多く聞かれました。
最近スポーツ視聴はDAZNやスカパー!、WOWOWといった有料チャンネルがメインになりつつありますが、既存ファン以外の人の視聴のきっかけとしては敷居が高いのが現状です。地上波での放送が難しくなっている今、試合を見てもらう以外の方法で、いかに認知を高めファンを作るかも重要といえそうです。

ファン獲得のための方法としては、「チームの特集などをして、様々なチームについて知る機会を作る」「SNSや地域のイベントで活躍している選手の紹介をする」といった意見が聞かれました。また「地元のチームや地元の選手だと親しみを持って応援したくなる」などの声も複数見られており、地域への愛着をクラブへの愛着に結びつける手法はやはり有効なようです。

また、「ルールをわかりやすくしてほしい」という意見も多く見られました。日本初のフェンシング銀メダリストで今年6月まで日本フェンシング協会の会長を務めた太田雄貴氏が、フェンシング界の振興を目指し様々な改革を行ったことをご存知の方も多いのではないでしょうか。その中でまず手を付けたのは分かりにくいフェンシングのルールを分かりやすくすることでした。会場の館内ラジオで選手の試合解説を流したり、床面にLEDディスプレイを使用し、選手がポイントを獲った時、床が光るようにして視覚的に分かりやすくするなど様々な施策を講じました。
スポーツを盛り上げるためには、そのスポーツをよく知らない人でも直感的にルールが理解できるよう、演出を工夫するといった視点も必要かもしれません。

趣味嗜好の多様化に伴い消費者のファン化の垣根が上がる今、どのスポーツでも新たなファンの獲得が大きな課題となっています。
かつてのプロ野球のように地上波で毎日特定のスポーツが放映される時代は恐らくもう訪れないでしょう。また親会社が潤沢な支援をしてくれるJリーグ創成期のようなバブルも起こることはないものと思われます。
そのような中で持続可能なスポーツの発展を目指すには、選手育成など競技レベルの向上に加え、「魅力的な『きっかけ』づくり」「『わかりやすさ』の演出」「エンゲージメントを高める『感動体験』」の3つを提供していく必要があるのかもしれません。

調査概要

全国の15~59歳・男女(各140名)のインターネットユーザーから回答を得た。

サンプル数 280
調査期間 2021年10月27日~10月28日
調査方法・内容 内容:1.次の団体やリーグの中に応援しているチームやクラブがあるか【野球日本代表/サッカー日本代表/バスケットボール日本代表/セ・パ両リーグ(プロ野球)/Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)/Bリーグ(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)/海外のプロ野球リーグ/海外のプロサッカーリーグ/海外のプロバスケットリーグ/当てはまるものはない) より】複数回答、2.1.で回答したチームやクラブを応援している理由として、当てはまるものを(チームやクラブの本拠地が自分の住んでいる地域に近いから/チームやクラブの本拠地が自分の生まれた地域だから/過去に選手などとの交流イベントに参加し、親しみがあるから/自分が住んでいる地域が強化キャンプ地になっており、親しみがあるから/家族や親しい人が応援しているから/過去に試合を見て面白かったから/好きな選手がいるから/スター選手が揃っているから/自分や家族、親しい人が競技をやっている・いたから/その他 より)複数回答、3.1.で挙げたスポーツの現地(ドーム、スタジアム、アリーナなど)での観戦経験および今後の観戦意向について(観戦したことがあり、今後も観戦したい/観戦したことはないが、今後観戦してみたい/観戦したことはあるが、今後観戦することはないと思う/観観戦したことはなく、今後観戦することもないと思う より)単一回答、4.3.で「観戦したことはあるが、今後観戦することはないと思う」「観観戦したことはなく、今後観戦することもないと思う」と答えた理由について(このスポーツに関心がない/以前は好きだったが最近関心を失っている/試合が面白くない、盛り上がらないから/結果だけ分かればいい/時間がない/開催地が遠い/チケットの入手が困難/チケットの入手方法や交通手段、観戦マナーなどを調べるのが面倒/チケット代が高い/その他 より)複数回答、5.1.で挙げたスポーツのテレビや有料放送・動画配信サービスなどの視聴状況について(以前から見ており、以前よりも見る機会が増えた/以前は見ていなかったが、最近見るようになった/以前から見ているが、以前よりも見る機会が減った/以前は見ていたが、最近は見ていない/以前から見ておらず、最近も見ていない より)単一回答、6.5.で「以前から見ているが、以前よりも見る機会が減った」「以前は見ていたが、最近は見ていない」「以前から見ておらず、最近も見ていない」と答えた理由について(このスポーツに関心がない/以前は好きだったが最近関心を失っている/試合が面白くない、盛り上がらないから/時間がない/地上波でやっていない/地上波や有料放送、動画配信サービスなど放映しているチャネルが多くどこで見られるかよくわからない/結果だけわかればよい/有料放送、動画配信サービスの料金が高い/その他 より)複数回答、7.(今応援していないジャンルのスポーツも含めた)スポーツ全般について現地観戦やテレビ、有料放送・動画配信サービスなどで応援したいと思うようになるきっかけについて自由回答にて回答を得た。