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第88回:コロナ禍における消費者のサービス・施設・店舗利用の意識について(1)

新型コロナウイルス問題で緊急事態宣言が発令されたのは2020年4月7日のことでした。あれから半年近く経過した今もなお東京都をはじめとする一部地域では連日2桁、3桁に上る感染者が確認されています。5月25日には緊急事態宣言が解除され、東京都では9月15日には飲食店の時短、都外への移動自粛も終了しました。外出時のマスク着用や3密を避けた新しい生活様式を取り入れながら、我々の生活は徐々に日常を取り戻しつつあるようにも感じます。しかしながら、旅行、飲食、運輸、エンターテインメント、娯楽業界などは以前のような事業運営ができず厳しい状況が続いています。

人々はこのような業界のサービスや施設、店舗の利用についてどのような意識をもっているのでしょうか。9月下旬のアンケート調査の結果を第1回、第2回の2回にわたりお伝えします。

第1回となる今回は新型コロナウイルス感染症の影響が現在(2020年9月下旬)の状況から変化がないと仮定した場合、消費者がどのようなサービスや施設、店舗を「積極的に利用したいとは思わない」と考えるか尋ね、さらに利用を前向きに検討するにはどのような対策が必要かを尋ねた結果をお伝えします。

接待を伴う飲食、大声を出す環境、長時間の3密に懸念

下記の【図1】はもし現在の状況が続くのであれば「積極的に利用したいとは思わない」施設や店舗の回答の割合を示したものです。

現状が続けば「積極的に利用したいとは思わない」と考えるサービス・施設・店舗(全体に占める割合)

スナック・バー・クラブ・キャバレーなど接待を伴う飲食店で割合が高くなっています。実際に6~7月にはクラスターが発生したケースもありました。しかしコロナ対策徹底などの努力もあり最近では感染が抑えられているようです。

マスクを外す時間が長く、マイクの共有、飛沫、換気などが懸念されるカラオケ、密集した場所で熱狂して歓声を上げやすいライブなども上位となっています。もちろんコンサートとライブはひとくくりにできるものではないので注意が必要です。クラシック音楽のコンサートでは観客が歓声を上げることはあまりないですね。9月19日からのイベントの人数制限の緩和でもクラシック音楽コンサートは感染リスクの少ないイベントとして収容要件も100%以内に緩和されています。(ロックコンサートやスポーツイベント等は50%以内)

また他の客と長時間近距離で一所に留まることの多い高速バスや観光バス、ツアー旅行といった旅行関連も数値が高くなっています。感染拡大前の1月末に中国人客が乗ったツアーバスの運転手とバスガイドが新型コロナに感染したというニュースが印象に残っている人もいることでしょう。現在、高速バス各社ではパーソナルスペースを確保したシート構成や空間除菌装置の設置、空気自動循環システムによる換気の徹底といった安全性を高める取り組みがなされていますが、以前のような活気を取り戻すのはなかなか難しいようです。

性別によるサービス・施設・店舗に対する意識の違い

それでは属性による回答傾向に違いはあるのでしょうか。男女別で回答結果を見てみましょう【図2】。

現状が続けば「積極的に利用したいとは思わない」と考えるサービス・施設・店舗(性別に占める割合)

全ての施設・店舗において女性の回答割合が男性を大きく上回っています。その差は平均すると女性が男性の1.25倍となりました。一方「あてはまるものはない」(つまり「積極的に利用したいとは思わない」施設が選択肢の中にない)と回答した人の割合は男性が多く、女性の回答値の1.5倍となりました。女性の方が各施設やサービス利用により慎重な傾向がうかがえます。

性別・年代によるサービス・施設・店舗対する意識の傾向

性別に加え、年代を加味するとどのようなことが言えるでしょうか。下の【表1】は性別、年代別の回答割合を示したものです。

現状が続けば「積極的に利用したいとは思わない」と考えるサービス・施設・店舗 (性別・年代別各属性に占める割合)

多くの施設・サービスにおいて50・60代女性で数値が高いことがわかります。

また先述の通り、男性は女性よりも全般的に数値が低い傾向にありますが、男性でも60代は比較的慎重な人が多いようです。特にスナック・バー・クラブ・キャバレーや居酒屋といった接客や飲酒を伴う飲食店やカラオケなどで回答割合が高い傾向が見られました。「カラオケ」は年代によってカラオケボックスを指すのか、カラオケスナックのような場所を指すのか変わってくるでしょう。60代ではカラオケスナックを思い浮かべる人も多いかもしれません。スナックの昼カラでクラスターが発生したニュースを気にする人も多かったのではないでしょうか。

さらに、高速バス、観光バス、ツアー旅行、飛行機といった一定時間密な状態での移動を伴うものやカラオケやコンサート・ライブ(ドーム、アリーナ、大ホール)といった密集して発声する可能性があると考えられるものは40代女性の数値も高くなっていることがわかります。

一般的にこの年代は男性よりも女性の方が行動範囲が広く、ライフスタイルも多様になっていると考えられます。これまで日常的に利用してきたサービスや施設・店舗については、熟知している分だけそのリスクも感じやすい傾向があるのかもしれません。加えて高齢に差し掛かった親や子供など、家族への影響を考えることも他の年代より意識が高い理由のひとつとして考えられそうです。

感染しないための直接的な対策を重視

では、コロナ禍においてどのような対策が取られていれば利用に前向きになれるのでしょうか。下の【図3】はいずれかの施設・店舗について「積極的に利用したいとは思わない」と回答した人に対し、どのような対策が取られていれば前向きに利用を検討するか尋ねた結果です。

「消毒・換気の徹底」「混雑時の利用人数の制限」「他の客との間隔が十分取れている」はいずれも半数以上の人が「前向きに検討する」と回答しています。

一方で「値引き」や「無料サービス」といった付加価値の提供や、Go To トラベルやGo To Eatキャンペーンなど、クーポンやポイントが付与されお得に利用できることに対してはそれほど多く回答が得られませんでした。安心して利用できる直接的な感染防止対策が支持されていることがわかります。

性別によるサービス・施設・店舗のコロナ対策への意識の違い

【図4】は施設・店舗のコロナ対策に対し「前向きに検討する」と回答した割合を男女別に示したものです。

どのような対策が取られていれば利用を前向きに検討するか(性別に占める割合)

「付加価値の提供(値引きや無料サービスなど)」を除く全ての項目で女性の回答割合が男性を上回っています。特に「入場・入店前検温、アルコール消毒の徹底」「消毒・換気の徹底」「他の客との間隔が十分とれている」「アクリル板などで従業員や他の客との接触を避ける」「事前に混雑状況がわかる」は女性の割合が高く、かつ男性の回答割合との差が大きいことがわかります。

特に女性については消毒と換気が徹底されていること、他者との距離が取れること、そしてそれらの対策が取られていることを利用前に把握できるようにすることで、サービスや施設・店舗の利用も積極的に考える傾向がありそうです。

一方「あてはまるものはない」は男性に占める割合が女性より高くなりました。前の設問で「積極的に利用したいと思わない」サービス・施設・店舗があると答えた割合は女性より少なかったものの、男性は女性と比べいったん躊躇すると仮に対策が取られていても前向きに検討できない傾向がやや強いようです。

性別・年代によるサービス・施設・店舗のコロナ対策への意識の違い

次に【表2】で性別、年代別の回答割合を見てみましょう。

多くの項目において男性よりも女性のほうが数値が高い傾向が見られますが、特に40代・50代女性の割合が他の属性を上回る項目が多いことがわかります。

なお「行っている感染対策が明示されている(ステッカーなど)」は特に50代女性、60代男性からの支持が他よりも高くなっています。東京都の虹のデザインのステッカーや神奈川県の感染防止対策取組書、大阪府のブルーで「O」を象ったステッカーなど街で目にすることも多いと思います。
一目で認識できるステッカーは特に年配層において一定の効果が得られていると言えそうです。

Go To キャンペーンについて

今回の調査では「利用に前向きになれる対策」として「Go To キャンペーン対象であること」にはそれほど支持が集まりませんでした。

7月22日より開始されたGo To トラベルキャンペーンは「失われた旅行需要の回復や旅行中における地域の観光関連消費の喚起を図るとともに、ウィズコロナの時代における「安全で安心な旅のスタイル」を普及・定着させる」ことを目的とした国土交通省(観光庁)所管の政策です。国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の35%割引きに加え、10月からは宿泊・日帰り旅行代金の15%相当分の旅行先で使える地域共通クーポンの付与も始まりました。また、10月からは除外されていた東京都も対象となり、さらに都民が都内を旅行する場合には都内観光促進事業として補助の上乗せも検討されています。

Go To Eatキャンペーン(農林水産省所管)では登録飲食店で使えるプレミアム付き食事券の発行(9月より順次)やオンライン飲食予約サイト経由で予約・来店した人に次回以降にその飲食店で使用できるポイントが付与(10月1日から)されます。

調査時点の9月下旬では東京都はGo To トラベルの開始前であり、Go To Eatキャンペーンについてはその仕組みが周知徹底されていなかった印象があります。
また Go To Eatキャンペーンの食事券の発行はまだまだこれからのところが多いと思われますし、キャンペーンのシステムについても客層などによってオンライン予約に適した店舗が限られることや、オンラインサイトへの手数料の発生、入金のタイミングの問題など小規模の店舗が登録するには障壁もあるようです。

今後Go To Eventキャンペーン(期間中のイベントやエンターテイメントのチケット購入に対して2割相当の割引またはクーポン等を付与)やGo To 商店街キャンペーン(商店街イベント等を実施する商店街に、300万円を上限に支援金を支給)も開始されます。詳しい利用方法や、対象となる店舗がどの程度あるのかなどが見えていないこともあり現実的に考えられる人が少なかったのかもしれません。

今回の結果から、コロナにより失われた需要の回復と消費喚起の後押しには、各サービスや施設・店舗におけるコロナウイルス対策の徹底と対策内容の周知が、地道ではありますが重要であることが分かりました。また国や自治体の支援施策に関してはそのシステムがより周知徹底されること、そしてなにより利用しやすいことがカギになると言えそうです。

調査概要

2020年9月下旬時点で新型コロナウイルス感染者が一定数確認されている東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪府・愛知県の20~60代(男女)のインターネットユーザーから回答を得た。

サンプル数 400
調査期間 2020年9月28日~9月29日
調査方法・内容 1.新型コロナウイルス感染症の影響が2020年9月現在の状況から変化がないと仮定した場合、今後およそ半年間(2020年10月~2021年3月)について、「積極的に利用したいとは思わない」と考えるサービス・施設・店舗を【A群-旅行・出張について(リゾートホテル/温泉旅館/民宿/ビジネスホテル(都市圏)/ビジネスホテル(観光地近く)/高速バス/観光バス/飛行機/新幹線/タクシー/ツアー旅行)、B群-外食について(レストラン/食堂(定食等)/ラーメン屋/焼き鳥屋、寿司屋など(カウンター席でかつ食材を手で扱うことが多いタイプの飲食店)/居酒屋/スナック・バー・クラブ・キャバレー/カラオケ/カフェ)、C群-エンターテインメント、趣味・娯楽について(映画館/コンサート・ライブ(ドーム、アリーナ、大ホールなど)/ライブ(ライブホールなど)/劇場/スポーツ観戦(サッカーや野球など屋外での観戦)/スポーツ観戦(バレーボールやバスケットなど屋内での観戦)/スポーツ観戦(ボクシングやプロレスなど屋内で競技エリアと客席が比較的近距離となっている屋内での観戦) /遊園地・テーマパーク/ボウリング場など遊戯施設・ジム・スパなど/デパート・ショッピングモール)、あてはまるものはない)】より複数回答、2. 前問で「積極的に利用したいとは思わない」と答えた回答者にどのような対策が取られていれば利用を前向きに検討するか【消毒、換気を徹底している/混雑時の利用人数を制限している/事前に混雑状況がわかる/他の客との間隔が十分取れるよう席が空けられている/アクリル板などで従業員や他の客との直接接触を避ける工夫がされている/入場、入店前に客への検温、アルコール消毒を行っている/行っている感染対策が明示されている(ステッカーなど)/Go To キャンペーンの対象である/付加価値サービスの提供(値引きや無料サービスなど)/あてはまるものはない】より複数回答にて回答を得た。