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第107回:社会課題に対する一般消費者の意識について

近年、日本社会を取り巻く環境はますます複雑さを増しています。経済の停滞、相次ぐ自然災害、そして地球規模で進行する環境問題。私たちは日々の生活の中で、こうした課題に少なからず影響を受けながら暮らしています。 では、こうした社会課題に対し、人々はどのような意識を持っているのでしょうか。今回の「なんでもランキング」では、さまざまな社会問題に対する消費者の考えを尋ねてみました。

消費者が不安に感じている社会課題

下図は、昨今の社会課題について、どのようなことに不安を感じているか尋ねた結果です。【図1】

全体では「地震・大雨等の自然災害」と「地球温暖化による影響」についておよそ半数が「不安に感じている」と答えました。今後30年以内に80%の確率で発生するといわれている南海トラフ地震をはじめ、地球温暖化が影響しているといわれる近年の記録的豪雨など、想定される被害の甚大さに不安を抱いている人が多いものと考えられます。また、「物価高騰による影響」が53.0%と、こちらも高い数値です。ここ数年の物価高騰が日々の生活に大きなインパクトを与えていることがうかがえる結果となりました。

年代別に見ると、60代以上は全体的に数値が高く、特に「国際情勢の不安定化」への不安が他年代と比べ高い数値です。その他「地震・大雨等の自然災害」など環境問題に不安を抱く人の割合も相対的に高くなりました。 一方で、10代・20代は「特に不安は感じていない」が46.0%と全項目中最も高くなりました。若年層は社会情勢への関心が他の世代と比べて低いのかもしれません。

社会課題解決に向け必要だと思う支援・取り組み

次に、社会課題解決に向けて必要だと思う支援や取り組みについて尋ねた結果を見ていきましょう。【図2】

全体では「政府・行政の積極的な支援」が最も高く、全ての年代において同様の結果となりました。大きな課題の解決のためには政府の支援が必要であると考える人が多いものと考えられます。 次いで「一人ひとりの意識や行動の変化」「民間企業の積極的な支援」が続きました。 「民間企業の積極的な支援」は40代以上において特に高い数値が出ています。この世代は企業に勤める期間が長く、自身の社会人としての経験を通じ実感してきた「民間企業の実行力やイノベーション力」が、今後は社会課題の解決にも活かせると感じているのかもしれません。

民間企業に期待される取り組み

では、民間企業にはどのような取り組みが期待されているのでしょうか。結果を見ていきましょう。【図3】

全体では、「食品ロス削減の取り組み」や「健康や食の安全に関する取り組み」、「被災地の復興支援に向けた取り組み」が高くなりました。特に、食に関する2項目は全年代で高い傾向が見られます。また、「被災地の復興支援に向けた取り組み」については50代以上で特に高くなりました。

企業の取り組みに対する消費者の印象

ここで、企業の社会課題解決への取り組みや、社会貢献活動が消費者に与える印象について見ていきましょう。 今回は、下表に挙げた企業の取り組みについて、公式サイトの紹介ページを参照してもらったうえで、その印象を尋ねました。

コンテンツ名    概要
教育支援
花王「花王の次世代育成プログラム」 [1]
小学校、特別支援学校を中心に「手洗い」の習慣化や初経教育などのプログラムを提供しています。
環境支援
サントリー「サントリー天然水の森」
良質な地下水を育むため、国内工場の水源エリアで森林と生物多様性を保全・再生する活動を行っています。
復興支援
トヨタ自動車「震災から10年。東北での決断と10年の歩み(前編)」
東日本大震災後、トヨタ自動車東日本を設立するなど東北に産業をつくり、雇用・サプライチェーンを生む“一過性ではない復興支援”に取り組んでいます。
人道支援
三井物産「地域貢献」 [2]
在日ブラジル人大学生向け奨学金プログラムやコロンビアでの自転車寄贈など、国内外で地域社会の健全な発展に向けた活動に取り組んでいます。
食品ロス削減
キユーピー「賞味期間延長で環境にもお客様にも「やさしい献立」に」
流通段階での食品ロス削減、備蓄食としての利便性向上に向け、商品の賞味期間延長に取り組んでいます。

全体として「サントリー天然水の森」の評価が高く、「取り組みの内容に共感できた」「社会に貢献している企業だと感じた」など4つの項目で5社中最も高い評価となりました。その他、花王「次世代育成プログラム」は「企業への好感が高まった」が、トヨタ自動車「震災から10年。東北での決断と10年の歩み」は「企業の新たな一面を知ることができた」が、キユーピー「賞味期間延長で環境にもお客様にも「やさしい献立」に」は「これからの社会にとって有益な取り組みだと感じた」が5社中最も高い評価でした。

各社の取り組みに対する意見・感想

最後に自由回答をみていきましょう。

全体を通じての感想では、「どの企業の取り組みも共感できる」「追随する企業がもっと増えてほしい」など世代を問わず、ポジティブな意見が多数寄せられました。

企業別に見ると、花王では「親や大人では曖昧にしか教えられないことをきちんと伝えられると思う」「教育が一番見返りなく社会への貢献度が高い気がした」といった教育支援の重要性に関する意見や「花王の製品を購入し続けたい」という購買継続の意向が見られます。 サントリー、キユーピーでは、食品を扱う企業ならではの取り組みに賛同する声のほか、「商品を買いたい」と思ったという意見が聞かれました。また、トヨタ自動車では企業トップが自ら動いてコミュニケーションを取っていたことに対して賛同の声が挙がっています。 三井物産では人道支援に関する取り組みについて、在日ブラジル人を支援していることを「初めて知った」「意外だった」という声が聞かれました。

いかがでしたか。 今回の調査結果より、さまざまな社会課題の解決に向け民間企業の活躍が期待されていることが明らかになりました。また、民間企業の社会的取り組みが消費者の企業イメージ形成に一定の影響を及ぼすことも確認されました。 今後、持続可能な社会の実現と、その社会の中で価値ある存在として企業が存続していくためには、こうした取り組みを継続的かつ発展的に進めていくことが求められます。

調査概要

全国の18~69歳 男女のインターネットユーザーから回答を得た。

サンプル数 400
調査期間 2025年10月30日
調査方法・内容 1.最近の環境や社会を取り巻く社会課題について不安に感じていることについて、 (地球温暖化による気象や生態系、社会・生活への影響/地震・大雨等の自然災害/国際情勢の不安定化/物価高騰による社会・生活への影響/食料供給の不安定化/食の安全性による不安定化/少子高齢化による社会・生活への影響/犯罪の増加や治安の悪化/インターネットにおける個人情報の流出や、アカウント乗っ取りといったサイバーセキュリティ問題/労働環境(給与・福利厚生など)が改善しないことによる生活への影響/マイノリティ(性、人種、宗教など)への偏見がもたらす社会への影響/社会的立場や価値観の違いによる分断の拡大/日本企業のグローバルにおける優位性、競争力の低下/その他/特に不安は感じていない)より、2. 不安を解消するために必要な支援・取り組みについて(政府・行政の積極的な支援/民間企業の積極的な支援/NGO・NPOなど非営利団体による支援/地域での助け合いやコミュニティの強化/国連やUNICEFなど国際機関による支援/一人ひとりの意識や行動の変化/その他/あてはまるものはない)より、3.企業の社会課題への取り組み(花王の次世代育成(花王)/サントリー天然水の森(サントリー)/震災から10年。東北での決断と10年の歩み(前編)(トヨタ自動車)/地域貢献(三井物産)/賞味期間延長で環境にもお客様にも「やさしい献立」に())の印象についてそれぞれ(取り組みの内容に共感できた/これからの社会にとって有益な取り組みだと感じた/社会に貢献している企業だと感じた/企業の新たな一面を知ることができた/企業への理解が深まった/企業への興味・関心が深まった/企業への好感が高まった/企業への信頼が深まった/この企業の製品・サービスを購入してみたいと感じた/この企業に投資してみたいと感じた/あてはまるものはない)より、それぞれ複数回答にて、4. 企業の取り組みについて印象に残った点、社会やご自身にとって意義があると感じた点について、自由回答より、5.企業のイメージ向上につながる社会課題解決や社会貢献の取り組みについて、(食品ロス削減の取り組み/健康や食の安全に関する取り組み/被災地の復興支援に向けた取り組み/感染症問題に対する取り組み/地域社会貢献の取り組み/文化・芸術・スポーツ活動支援への取り組み/未来世代支援の取り組み/貧困問題への取り組み/途上国支援の取り組み/多様な人材を活かし、各自の能力が最大限発揮できる機会を提供する取り組み/従業員のスキル・知識を育成・活用する取り組み/従業員の健康への配慮、労働安全衛生への取り組み/あてはまるものはない)より複数回答にて、それぞれ回答を得た。