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シリーズ3 第8回:ユニ・チャーム株式会社

話し手
ユニ・チャーム株式会社 マーケティングコミュニケーション部 eUC推進室長 坂元 乃之氏
顔写真

周辺情報に力を注ぎ込む

「やさしさをつくる。やさしさでささえる。」——。この標語はユニ・チャームの商品開発や事業展開など企業活動の根幹に貫かれている、最も重要なコンセプトであり、消費者に対するメッセージでもある。Webサイトも、このコンセプトに沿ってコンテンツ作りやデザインが進められている。そして、ひとたびユニ・チャームのWebサイトを訪れれば、その想いや意気込みは直接的、間接的に伝わってくる(【図1】)。 まず、情報量の多さに圧倒される。ユーザーがユニ・チャームに求める素材が、きめ細やかに揃っているのだ。紙おむつの「ムーニー」や生理用品の「ソフィ」などの商品情報が充実しているのは、ブランドを前面に出したビジネスモデルを推進している以上、当たり前のことだろう。しかし、商品情報と同等かそれ以上に、その周辺情報、ユニ・チャームがいうところの「お役立ち情報」を充実させているのが特徴である。 それは、試しに「ムーニー」のブランドサイトにアクセスすれば一目瞭然だ。製品情報以外に、「妊娠・出産・育児初めてレッスン」という妊娠・出産・育児初体験の女性向けに「初めて」の不安を解決するヒントが詰まったコンテンツを提供。2006年11月からは「赤ちゃんのおむつ・おしり研究所」を開設。初産後の女性必見の紙おむつの選び方や上手な付け方などの情報を発信する。

コアな情報の提供がファン化を促進

一方、生理用品である「ソフィ」のブランドサイトに足を踏み入れると、生理通やPMS(月経前症候群)に関する情報やアドバイスを詳しく記述した「ソフィスクール」、初めて生理を迎える子供向けサイト「はじめてからだナビfor girls」など、こちらも手厚いコンテンツが目白押しだ(【図2】)。 その他にも女性の尿モレのセルフケア方法や悩みの解決法を伝授する「尿もれケアナビ」、介護の必要な高齢者やその家族向けに快適な排泄ケアと工夫を紹介する「排泄ケアナビ」など、問題を抱えるユーザーにとって、ピンポイントで回答を提示するコンテンツが並ぶ。「当社はオムツや生理用品の専門メーカー。商品以外の周辺情報まで広く深く調査・研究している。だからこれまで蓄積した知見をコンテンツとして出している」と、Webマスターの坂元乃之氏は説明する。 入手困難、しかも他人には聞きにくい情報がユニ・チャームのWebサイトにはある。対象者は検索サイトなどを介してコンテンツにアクセスし、悩みや問題を解決してくれたユニ・チャームに感謝の念を抱くようになる。ここにブランドのファン化への第一歩を標すわけである。さらに、各コンテンツには製品情報や同社が運営するECサイトへの導線を設けている。製品購入までの自然なフローが成り立っているのだ。

異業種メーカーと協業し専門ポータルを構築

ユニ・チャームの情報の提供はこれだけではない。自社Webサイトの外にも、ユニ・チャームを中心に、異業種のメーカーとアライアンスを組みながら運営する専門サイトを立ち上げている。 その1つが、「ベビータウン」(【図3】)。文字通り、乳児に関連する情報が満載のいわば“赤ちゃんポータル”である。ターゲットは、乳児を育てる母親。ただし、母親が必要としている情報は、おむつ以外にもベビーフードやマタニティ、ベビー用品など多岐に渡る。ユニ・チャーム1社では、全ての情報を提供することは困難である。そこで、「餅は餅屋」の考えのもと、各分野が得意な会社と提携し、赤ちゃんポータルを見事成立させている。会員数は現在約25万人。掲示板も設けられ、会員による活発な書き込みが展開されている。一方、同じようなコンセプトで、出産前の情報が満載の専門サイト「プレママタウン」も開設。 「ベビータウンが開設されたのは2001年。その年に新社長が就任し、インターネット事業に注力する方針を打ち出し、Eビジネスを推進するeCU推進室が発足。それを機にWebサイト全体をリニューアルし、商品情報や周辺情報を積極的に発信する場として活用し始めた。その過程で、専門ポータル、コンテンツ、ECサイトなどを矢継ぎ早に立ち上げてきた」と、坂元氏は振り返る。特に、専門ポータルをアライアンス方式で開設し、運営していくスタイルは、同じように特定のターゲットに対し複数の異業種メーカーが様々な製品を提供している業界において、非常に有効なアプローチといえる。

デザイン/ナビもユーザーフレンドリーに

情報提供以外にも、ユニ・チャームのWebサイトには優れた点がある。それは、サイトデザインとナビゲーションである。トップページのカラーリングはブルーとオレンジを基調に柔らかいイメージに配色され、デザインはシンプルかつ丸みを帯びた心が和むようなものになっている。 また、全項目が1ページに収まるので、縦スクロールする必要がない。そして、コンパクトな表示ながら各項目は非常に見やすく、ほとんど直感的にボタンをクリックし、必要な情報にたどり着けるような構成。実にユーザーフレンドリーである。 各ブランドやコンテンツに飛ぶと、さらに、特徴的なナビゲーションに出会う。周辺情報や商品情報に誘導するボタンを効果的に設置。コンテンツ同士のリンクをより強力にし、ユーザーの回遊性を高めているのだ。そのボタンの配置も見やすく、詰め込んでいる印象は全く受けない。「やさしくつくる。やさしくささえる。」のコンセプトは、こうしたデザイン面、ナビゲーション面にも宿り、Webサイト全体の統一感を醸し出している。

キャンペーンも同時多発的に展開

Webサイト上でプレゼントキャンペーンを多数展開していることもユニ・チャームの特色だろう(【図4】)。常時複数のキャンペーンの告知がページ上を賑わせている。06年末には、Webサイト開設10周年を記念して、応募者がプレゼントしたい人にユニ・チャームが代わって商品を届ける「あなたのやさしさお届けしますキャンペーン」といったユニークなものも展開した。 「一般的にキャンペーンは自分のために応募するものだが、これは人のために応募するもの。目的はここにある」と、坂元氏は、冒頭に挙げたユニ・チャームのコンセプトを指差す。コーポレートメッセージをキャンペーンに巧みに組み込んでいるわけだ。 キャンペーンの応募には、IDの登録が必要であり、その過程でメルマガ配信の可否を確認している。メルマガ会員は現在約40万人。キャンペーンの効果は着実に上がっているようだ。

ユーザー参加型に新たな活路を

今後は、Webサイトへのユーザー参加を積極的に進めていくという。その1つの試みが、「ウェーブ座談会」。Webサイト上でモニタを募集し、選ばれたユーザーは実際に掃除用品の「ウェーブ」を使用し、感想を座談会形式で発表。その模様をまたWebサイト上で詳しくレポートするといった内容だ。その座談会に関する感想を募集するプレゼント付きキャンペーンも同時並行で実施。二重三重にユーザー意見を集める仕組みを構築する。 ムーニーでは、ユーザーから乳児の画像を募集。06年9月に1週間の応募期間を設けたところ、実に1500人から愛くるしい画像が集まった。「せっかく応募していただいたので、全部をムーニーのブランドトップページでフラッシュを用いて紹介していく」と、坂元氏(【図5】)。10日に1度の更新で何とか全画像を出し切る予定である。親にとって、次々と切り替わる乳児の画像の中に、わが子の笑顔を見つけた瞬間は、格別だろう。 自分たちからの発信に加え、ユーザー参加の道を探り始めたユニ・チャーム。独自の双方向性の構築が、更なるファン醸成につながることは、間違いなさそうである。

ユニ・チャームのWebサイト構築のポイント
  • ユーザーの役に立つ周辺情報に、商品情報と同等かそれ以上に注力
  • 入手困難で他人には聞きにくいが専門性の高い情報を積極的に提供し、ターゲット層のファン化を推進
  • 乳児の母親をターゲットとする異業種メーカーとアライアンスを組み、専門性の高い“赤ちゃんポータル”「ベビータウン」を開設
  • デザイン、ナビゲーション、キャンペーンにもコーポレートメッセージを反映させWebサイト全体の統一感を醸成
  • ユーザー参加型コンテンツを展開するなど、Web2.0的な取り組みも活発化