- ブランド戦略通信│トライベック・ブランド戦略研究所 - https://japanbrand.jp -

シリーズ3 第6回:日清食品株式会社

話し手
日清食品株式会社広報部 東京広報部 係長
松尾 知直氏
顔写真

ブランドサイトは個性派揃い

日清食品のブランドサイトはそれぞれ強烈な個性を放つ。「カップヌードル」では、誕生秘話、歴代商品や世界各国の商品の紹介という重厚なデータベースでブランドの奥深さを強調するとともに、制限時間3分間の数々のミニゲームを用意し独特の世界観をアピール(【図1】)。「どん兵衛」は全く趣が異なる「どんらんど」を展開(【図2】)。和の色調で統一し、全国のうどん・そばの名店紹介、マメ知識、プレゼント付ゲームなどでオリジナリティ溢れる世界を構築する。一方、「チキンラーメン」では「チキラー島」を開設(【図3】)。ユーザーがツールを使って絵を描いて応募したり、グリーティングカードを作って他のユーザーに送るなど、子供が楽しめるミニコンテンツが満載。「チキンラーメン」ブランドを幼少期から訴求する「原体験マーケティング」を推進する。そして、それぞれが製品別の独立したドメイン名で展開している。

「ナビゲーションやCIマークを置く位置などレギュレーションは決めているが、表現などで規制は基本的になく、各ブランドに任せている。元々日清食品のブランドの構造は、企業ブランドよりもプロダクトブランドが強いので、まずはプロダクトの世界観を自由に作るというのが基本的なポリシー。その中で、『日清食品は面白いことをやる』というユーザーの期待に応えるために、楽しい仕掛けをふんだんに盛り込んで、躍動感、エンターテインメント性をWebサイトで表現している」と、松尾知直氏は説明する。

確かに、「日清食品」という企業名より、「カップヌードル」、「どん兵衛」、「チキンラーメン」といったプロダクト名のほうがブランド訴求力は高い。そこに主軸を置き、各製品なりの世界観を展開することは、マーケティングとして理にかなっている。さらに、日清食品の組織体制もこの手法を後押しする。同社では1990年から「ブランドマネージャー制」を導入。製品間の社内競合を促すために製品ごとにブランドマネージャーを置き、担当ブランドの開発、販売、在庫、利益、品質など全プロセスを管理する体制を整えている。

つまり、各ブランドは独立性が高く、それはWebサイトの運営においても同様である。各ブランドサイトの運営は宣伝部の担当者が責任者となり、ブランドマネージャーと話し合いながら、自由な発想で独自の世界観を構築しているのだ。

TVCM非連動型で構築する独自の世界観

TVCMで起用するタレントやキャラクターのイメージを、一部の例外を除いてWebサイト上では連動させないのも、日清食品のWebサイト戦略の大きな特徴だ。例外とは、現在カップヌードルで進めている「FREEDOM」と銘打つプロジェクトであり、TVCMや長編DVDシリーズとして展開する本格アニメーションのキャラクターをブランドサイト上でも活用する(【図4】)。しかし、それ以外の主要なブランドサイトでタレントなどを前面に出した訴求はほとんど見られない。

CMタレントは出演契約が切れた場合、Webサイト上でも使用できなくなる。そうなると、また一からブランドサイトを作り直さなければならない。そういった事態に陥らないためにも、TVCMとは連動させず、長い目で独自の世界観を築いていく。日清食品ではその方針が着実に貫かれている。

プロダクトブランドをケンカさせない

一方で、日清食品のニュースリリースや製品情報、歴史、スポーツ・食文化活動、投資家情報、会社情報などを発信する「企業ポータル」の部分は広報部が管轄する(【図5】)。「企業ポータルは、それぞれの世界観を出しているブランドサイトを物理的につなぐハブ的な役割を果たす。コアの部分に企業ポータルがあり、その周辺にブランドサイトが散りばめられているイメージで、ツリー構造ではない」。この構造もプロダクトブランドが圧倒的に強い日清食品ならではといえる。

トップページでのブランドサイトへの誘導には細心の注意を払う。「以前はブランドサイトのボタンが常時並列で表示されていた。宣伝部の『すぐ押せる位置にボタンを置いてくれ』という要望があったためで、ログ解析を見ても常に見えていると押されやすいことは確かだった。しかし、個性が強いブランドが隣り合わせて主張していては、お互いがケンカしてしまい、逆に散漫な印象を与えてしまうことになる。だから、見せ方に手を加え、メインPRの枠で旬のブランドを大きくアピールし、それ以外はマウスオーバーするとボタンが出てくる仕組みにした」。これは宣伝部と協議した結果のブランディング優先させた取組みである。

もちろん、フォローアップも欠かさない。トップページ左側に「注目の新製品」、「CM NOW on AIR」、「キャンペーン情報」などの項目を設けて、各ブランドサイトへの導線を確保している。いわば強すぎるブランド同士のケンカを避けたナビゲーションの一工夫といえる。

ノイズまみれにしないシンプルな誘導

プロダクトブランドに注力してきた日清食品では、2006年からは企業ブランドの訴求にも力を入れ始めた(【図6】)。「消費者の方の食の安心・安全に対する意識が高まる中、日清食品の取り組みを改めて伝えるために、9月からTVCMと新聞広告を展開し、Webサイトでも新たなコンテンツを設けた。コンテンツは見る方の関心の度合いに合わせて、30秒でわかるもの、3分でわかるもの、じっくり読んで理解するものの3層に分けて複層的に作りこんでいる」と、松尾氏。元々会社情報の中に「安全と環境への取り組み」というコンテンツを設けているが、それを企業ブランディングに活用し、トップページで全面的に訴求する。時流に乗った巧みな企業ブランド展開といえる。

ユーザーのナビゲーションでも独自の思想がある。「どなたが訪れてもその方が必要としているコンテンツになるべくシンプルに誘導する。あるいは、トップページを見ただけでも日清食品が今何をやっているのかがわかるようにする。誤解を恐れずにいうなら、その結果、ページビュー数が下がってしまっても、それでいいと思っている。昨今、検索エンジンが発達してユーザーが求めるコンテンツにアクセスする時間、タッチ数が確実に減る中、せっかく日清食品のページに素早くたどり着けたのに、そこから色々誘導されて不要な情報を入れられるのは、ある意味で迷惑な話。ノイズまみれにするよりも、ストレスを感じないシンプルな情報提供のほうがいい」と、松尾氏は真摯な姿勢を示す。

07年3月には05年4月以来約2年ぶりにトップページを全面的にリニューアルする。基本的には、ログ解析に基づき、ユーザーからの欲求が多い情報を中心に掲載していく。また、文字情報が中心となっているものを、今回のリニューアルではビジュアルを重視し、より感覚的に訴えるような見せ方に変える。各ブランドサイトの進化とともに、個性派集団をまとめるポータルの新化も今後楽しみである。

日清食品のWebサイト構築のポイント
  • 個性派揃いのブランドサイトは一定のレギュレーションの下で、自由に世界観を構築
  • Webサイト上ではTVCMで起用するタレントやキャラクターを極力使わず、独自の世界観を長期にわたり一貫して訴求
  • 企業ポータルは、ブランドサイトを物理的につなぐハブ的な役割
  • トップページのブランドボタンは、流入数ではなく、ブランディングを優先して設置
  • ユーザーをノイズまみれにしないシンプルな導線を整備