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第6回:先端技術イメージの伝達−松下電器産業のブランド戦略

メーカーの企業イメージは技術力に対する評価に大きく左右される。松下電器はわが国でトップクラスの研究開発投資を続けてきた会社にも関わらず、「技術力がある」というイメージでは長年ソニーの後塵を拝してきた。

その背景には、「ポータブルラジオ」、「携帯型オーディオ(ウオークマン)」、「CDプレーヤー」、「ペット型ロボット」など、世界に先駆けて市場創造型の製品を発売し、他社がそれに追随してきたという過去の歴史がある。ソニー製品がライフスタイルを変えたというイメージは印象的であり、技術で先端にあるというイメージを維持してきた大きな原動力となっている。

一方、松下電器はソニーを意識し、この10年来「世界初」の製品を生み出すために組織を挙げて取り組んできた。

その成果がようやく結実しているように見える。

好調を続けるプラズマテレビはまさに松下電器が市場を創ってきた商品である。画期的な光学式「手ブレ補正」の機能がついたデジカメは同社が先駆けて製品化した。DVD市場の成長は同社の取り組みなしには語れない。

情報発信面でも技術力を訴求した広報に注力している。

広報誌として歴史のある「松下テクニカルジャーナル」のほか、技術開発で活躍する人に焦点を当てた雑誌広告「『HumanFile』シリーズ」、Webマガジン「モノづくりスピリッツ発見マガジン『isM(イズム)』」など多くの情報発信の手段を用いて技術力のPRに努めている。

日経企業イメージ調査の「技術力がある」イメージは上昇傾向にあり、その他のイメージ項目もそれに連動するかのように軒並み上昇傾向にある。

しかし、である。

実は、同社のイメージアップは業績のV字回復を大きな契機としている。すなわち、「技術力」イメージが先行指標となりそれが業績回復を支える一つの要因となったというよりも、むしろ業績がよくなったことが全てのイメージを向上させる上で大いに寄与した、という側面が否定できないのである。

同社には、ソニーのように短期間のうちに人々のライフスタイルを一変させたことを想起させる、象徴的な製品が欲しい。エレクトロニクス業界はその可能性を大きく秘めた業界のように思う。そして、コミュニケーション戦略上も、ホンダのアシモのように、ビジネスには必ずしも直結しなくてもイメージを牽引する役割を担うような戦略商品があってよいのではないか。

※本コラムは、2006年11月〜2007年4月にかけて「japan.internet.com」に掲載された内容に加筆・修正したものです。