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第52回:企業を代表する商品ブランド

企業ブランドの価値を構成する重要な要素に商品ブランドがあります。企業は時間と労力をかけ開発した一つひとつの商品がやがてその企業を代表するブランドに育ってくれることを願っているはずです。それでは、人々はそれぞれの商品をどのように捉えているのでしょうか。今回は企業を代表する商品ブランドについて聞いてみました。

伝統と信頼の定番はビール -キリン-

まずは日本で初めて作られたビールを起源にもつキリンです。グループを代表する商品は第一にビールであるといえます。そしてビールの中でも特に「一番搾り」。ソフトドリンクでは茶系飲料、特に「午後の紅茶」が最も代表的なブランドです。

「一番搾り」は75%と非常に多くの方が代表する商品に上げています。麦汁ろ過の工程で最初に流れ出る「一番搾り麦汁」だけを作ってビールを作る製法名がそのままブランド名になったビールです。重厚になりがちな麦芽100%のビールを爽やかでうま味のある味に仕上げた開発者たちのこだわりもこのネーミングに込められているのでしょう。

続いて2位は「午後の紅茶」(53%)です。日本初のペットボトル入り紅茶として1986年に発売されて以来のロングヒット商品です。冷やすと濁ってしまう紅茶を透明のままユーザーに届ける技術開発は画期的なものだったようです。ところで一番搾りも午後の紅茶もCMには女優の蒼井優さんが起用されていますね。どちらも爽やかでクリアなイメージがぴったりだったのでしょうか。

次いで多かったのは同社基幹商品であるラガービール(49%)、新芽を摘んでからすぐに瞬間凍結する製法で作った生茶(37%)、日本酒用語「すっきりしているが、薄っぺらではない、上質な味覚」から名づけられた発泡酒、淡麗(33%)と続きます。こうしてみるとやはりビール、中でも「一番搾り」の強さは際立っていますね。伝統的分野の強みを活かし、さらなる品質向上を追求してユーザーの信頼を得続けてほしいと思います。

ピラミッドの頂点はカップヌードル -日清-

続いては1948年に創業、インスタントラーメンを開発した日清食品です。日清食品ブランドのピラミッドは基幹商品であるカップヌードルを頂点としてどん兵衛、チキンラーメン、焼きそばU.F.O.といった第二層、そしてそれ以外の商品の三層で構成されているようです。

頂点のカップヌードルは実に9割の方が代表する商品として答えています。今では知らない人はいないカップヌードルも世界初のカップ麺ということで開発当時はカップで食べる、立って食べる、当時出回っていた袋めんに比べて高価、となかなか受け入れられず苦労したそうです。夜勤が多い職場などのルート開拓や歩行者天国での試食販売などこれまでとは違う営業方法により普及し、今日の人気を得ています。アイデアと努力が実を結んだのですね。

2位はどん兵衛で47%でした。それまでコップ型だった容器をうどんらしく丼型に、東西で味や具材を変えるなどマーケティングをいち早く開発手法に取り入れた商品として知られています。

3位は世界初のインスタントラーメンのチキンラーメン(45%)、4位は発売開始35年を迎えた焼そばU.F.O.(43%)でした。どん兵衛、チキンラーメン、焼きそばU.F.O.は僅差で良い勝負ですね。

さらには出前一丁(22%)、ラ王(21%)、SPA王(11%)とピラミッドの第三集団が続きます。

4つの存在感のある強いブランド -ソニー-

次はソニーです。ソニーは特に4つのブランドがそれぞれ存在感ある強いブランドとして確立されています。最も多かったのはポータブルオーディオプレイヤーのWALKMAN(67%)です。一時期はポータブルオーディオプレイヤー全般がWALKMANと呼ばれていたほどです。最近はデジタル化によってコンパクト化、多機能化が一層進み、スピーカーに接続できるのはもちろん、曲に合わせて歌詞が見えたり、ボーカルをキャンセルしたり音程もコントロールできるカラオケ機能がついていたりと進化しています。

次いで多かったのはPlayStation(65%)です。ソフトウェアの媒体としてROMカセットではなくCD-ROMを採用することで映像・音声の向上や普及に大きな影響を与えたといわれています。CD-ROMについては裏を黒や青に塗って音楽用のCD-ROMと間違わないようにしているというのをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。AV機器メーカーらしい配慮です。

3位はテレビのBRAVIA(59%)です。2005年にそれまでのWEGAからブランド変更されました。名前の由来については以前、第29回:テレビ製品ロゴのイメージ調査 [1]でも触れましたがBest Resolution Audio Visual Integrated Architecture(自然の色や質感などをありのままに映し出す高画質・薄型テレビの総称)の頭文字を取ったものです。6割の方が代表する商品と答えています。

4位は僅差でWindows搭載PCのVAIO(57%)という結果になりました。ちなみにVAIOはVisual Audio Intelligent Organizerの略と定義されています。

これらのブランドの中でも当時、新しい市場を創造した「WALKMAN」が今も代表的な地位にあります。しかし、最近そのようなブランドが出ていないのは少し寂しい気もしますね

イメージは安心と信頼 -花王-

続いてはトイレタリーの最大手の花王です。原材料から生産、出荷、物流まで管理する品質保証への取組には定評があります。84%の方が衣料用洗剤のアタックを代表する商品として回答しました。アタックと言えば以前の調査(第31回:商品ブランド単独VS企業ブランド付き商品ブランド [2])で受けるイメージを聞いたところ多かった回答は「製品のイメージがわく」、「信頼できる、安心できる」でした。今回の結果も合わせて見てみると人々は「花王」と聞けば「アタック」を、「アタック」と聞けば「信頼、安心」といったイメージを持つとも考えられますね。商品ブランドがうまく企業ブランドイメージを作り出していると言えそうです。

次いでスキンケア洗顔料のビオレ(46%)、住居用クリーナーのマジックリン(43%)、薬用入浴剤のバブ(41%)と続きます。ビオレが誕生したのは1980年。語源は、「Bios」+「Ore」。ギリシャ語で、満ち足りた(Ore)生活(Bios)を意味しているそうです。マジックリンの発売は1971年、バブの発売は1983年、そして1位のアタックは1987年といずれも発売以来25年以上経過しているロングセラーです。

様々な商品を扱う花王ですが、アタックの評価は他の商品を大きく引き離しています。これはアタックが洗濯洗剤という他に比べて競合製品が少なく、しかもどの家庭も利用する製品分野のトップブランドであるからと言えるかもしれません。ある分野で圧倒的シェアを占める商品は企業を代表する商品ブランドと認識されるようになるんですね。

コンパクトに全てが盛り込まれたクルマ -ホンダ-

最後はホンダです。一般にラグジュアリーブランドをラインアップに持つ商品では、売れ筋の実用品より販売数量は少ないが憧れの対象になるような上位モデルがブランドイメージを形成していることがあります。しかし、ホンダの今の姿はそのような従来的な概念をくつがえすもののようです。

最も多かったのは発売開始10周年を迎えた乗用車フィット。70%の方が代表する商品に挙げています。クルマづくりの基本的な考え方、人間のためのスペースは最大に、機構のためのスペースは最小限にして、クルマのスペース効率を高めようとするM・M(マンマキシマム・メカミニマム)思想を受け継ぎ、快適な走りと低燃費を両立した理想のスモールカーです。2010年にはフィットハイブリッドが発売されています。開発チームの数々のチャレンジは小説になりサイト上で読むことができます。その中の言葉、「努力すれば、達成できるレベルのようなものではダメだ。無理、と思えるくらい高い目標に挑み、先駆けて具現化してこそ価値がある。」かっこいいですね。高い目標が具現化されたフィット、乗用車では昨年の売上もホンダトップです。

続いては2009年にフルモデルチェンジし、2010年累計販売台数でミニバン1位を獲得したステップワゴン(46%)です。開発コンセプトは「家族みんなが楽しく、家族みんなが楽に移動できる、家族みんなに最適なミニバンを目指した『皆楽ミニバン』」。開発思想やコンセプトはユーザーにも伝わってブランドが確立されてきたのでしょう。

以下、ハイブリッドカーインサイト(39%)、オートバイのスーパカブ(37%)、乗用車アコード(33%)、世界初の本格的な二足歩行ロボットASIMO(28%)と続きます。

今回の結果では、イベントなどで活躍しているASIMOや日本唯一のスーパースポーツカーと称されたNSX(2006年に販売を終了)(16%)など人々に夢を与える先進ロボットや高級スポーツカーなどの数値が思った以上に低く、実用的で入手可能だが従来の発想による区分では必ずしも憧れの対象とは言えなかった小型車が上位に並んだことは少々意外でした。いまや、ファッション性も実用性も環境性能も必要なものは全てコンパクトに盛り込まれる、そういうものが支持される時代になってきたのでしょう。

企業を代表する商品はいずれも粘り強い開発、地道なマーケティングなど関係者の努力によって支えられブランドとして確立されてきました。ただ、ホンダを除く企業では代表するブランドは発売開始から時間の経過しているものが多く、勢いがあまり感じられない気もします。今後も数多くの商品が開発され、日本企業の商品ブランドが国内のみならず世界中で認知されるようになってほしいですね。

調査概要

全国20歳以上男女のインターネットユーザーから回答を得た

サンプル数 100
調査期間 2012年2月10日~2月11日
調査方法・内容 キリン(ビール+ビバレッジ)、日清食品、ソニー、花王、ホンダについてそれぞれ任意の10製品の中から企業を代表する製品と思われるものを答えてもらった(各企業3製品ずつ)。