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第23回:ブランド名変更のイメージ調査

商品やサービスにとって「ネーミング」はその売れ行きを決める非常に重要な要素といえます。消費者・利用者にポジティブなイメージとして残れば、商品は売れ、サービスは利用される可能性が高くなる。逆にネガティブなイメージとなれば、商品は売れず、サービスは利用されない可能性が出てくる。従ってネーミングはマーケティングの成否の一端を担っているといっても過言ではありません。

そのため企業はネーミングに注力します。時には一度決定した商品やサービスのブランド名を変えることもあります。その結果売上げが向上したり、利用者が増えたりするケースもあります。

そこで今回は過去において実際に企業がブランド名を変更したケースを取り上げ変更前、変更後のブランド名に対し消費者がどのようなイメージを抱くかを調査・検証してみました。

調査対象のブランド変更例は以下の通りです。

ブランド名に対するイメージ項目は以下の通りです。そのうちそれぞれのブランド名に対するイメージとして当てはまるものを回答者に複数挙げてもらいました。

「通勤快足」でインパクトと商品のわかりやすさが大幅に改善

Case1:フレッシュライフ→通勤快足

まずは約20年前にレナウンから発売されヒット商品となった紳士用抗菌防臭靴下「通勤快足」から。ビジネスマンの強い味方となっている機能性靴下ですが、当初別名で売られていたのを知っている人は少ないのでは?

1981年、この商品は「フレッシュライフ」という名称で発売されました。発売初年度こそ売上げ3億円のヒットとなりましたが、その後は減少の一途。そこで起死回生を狙って87年に商品名を「通勤快足」に変え再度市場に出したところ年間売上げ13億円に。89年には45億円という大ヒット商品に化けました。

ではそれぞれから受ける消費者の印象はどうか——。実際に今回の調査で聞いたところポジティブ項目の「インパクトがある」は「フレッシュライフ」の7ポイントに対し「通勤快足」38ポイントと改善ポイント(ネーミング変更前と変更後の差)は+31ポイントに及んでいます。また「商品の内容がわかりやすい」の改善ポイントも大きく、+29ポイントとなりました。

逆にネガティブ項目の「印象に残らない」は「フレッシュライフ」−28ポイントに対し、「通勤快足」は−3ポイント、「何の商品だがわかりにくい」は同−51ポイントに対し、同−10ポイントといずれも大きく改善しています(改善ポイントは各+25ポイント、+41ポイント)。商品にとって生命線ともいえる「インパクト」と「商品のわかりやすさ」でこれだけ改善するのであれば売上げ増という成果が出るのも頷けます。

(単位:pt)
イメージ フレッシュ
ライフ
通勤快足 改善ポイント








インパクトがある 7.0 38.0 31.0
商品の内容がわかりやすい 9.0 38.0 29.0
洗練された感じがする 18.0 7.0 -11.0
親近感がわく 8.0 20.0 12.0
買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思う。
3.0 16.0 13.0








印象に残らない -28.0 -3.0 25.0
何の商品だがわかりにくい -51.0 -10.0 41.0
野暮ったい感じがする -7.0 -4.0 3.0
あまり親近感がわかない -13.0 -10.0 3.0
あまり買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思わない。
-13.0 -8.0 5.0
*各項目のポイント数の算出方法
ポジティブイメージ項目のポイント:n数×1ポイント
ネガティブイメージ項目のポイント:n数×−1ポイント

「ゆめもぐら」では何の商品だかわからず、使いたくない

Case2:ゆめもぐら→大江戸線

「大江戸線」は2000年に全線が開通した環状部と放射部で構成される都営地下鉄。「日本の地下鉄の路線として最長」「六本木駅は地下鉄駅として日本で最深部にある」など日本一の話題に事欠かない路線ですが、開業時にその名称をめぐって物議を醸したのは記憶に新しいところです。当初「路線名:東京環状線」「愛称:ゆめもぐら」が第一候補だったのですが、当選したばかりの石原都知事が「厳密には環状ではない」などを理由に「待った」をかけました。そして「俺は『大江戸線』なんてのがいいと思う」とコメント。それを受けて現在の名称「大江戸線」に決まったという経緯があります。

今回の調査で「インパクトがある」は「ゆめもぐら」の13ポイントに対し、「大江戸線」は35ポイントと+22ポイント改善。「何の商品だかわかりにくい」は「ゆめもぐら」では−69ポイントにも達し、「大江戸線」への名称変更による改善ポイントは+28ポイント。また「あまり買いたい(買ってあげたい)/使いたい(使わせたい)と思わない」は「ゆめもぐら」−28ポイント、「大江戸線」−17ポイントで改善ポイントは+11ポイントという結果となりました。ブランド名の変更によりイメージは改善されたといえそうです。

「大江戸線」というネーミングの結果とは必ずしもいえませんが、同路線の利用者数は近年の「都心回帰」の現象や、六本木、汐留、勝どきなど沿線の大型開発による影響もあり05年度が前年比5.3%増、06年度が5.7%増、07年度が8.5%増と好調を持続しています。

(単位:pt)
イメージ ゆめもぐら 大江戸線 改善ポイント








インパクトがある 13.0 35.0 22.0
商品の内容がわかりやすい 9.0 3.0 -6.0
洗練された感じがする 0.0 0.0 0.0
親近感がわく 20.0 19.0 -1.0
買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思う。
3.0 1.0 -2.0








印象に残らない -9.0 -2.0 7.0
何の商品だがわかりにくい -69.0 -41.0 28.0
野暮ったい感じがする -21.0 -18.0 3.0
あまり親近感がわかない -16.0 -18.0 -2.0
あまり買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思わない。
-28.0 -17.0 11.0
*各項目のポイント数の算出方法
ポジティブイメージ項目のポイント:n数×1ポイント
ネガティブイメージ項目のポイント:n数×−1ポイント

「お〜いお茶」で狙い通り親近感を獲得!

Case3:缶煎茶→お〜いお茶

伊藤園が世界初の缶入り緑茶を開発し、発売したのが1985年。ただし当初のブランド名は「缶煎茶」でした。しかし発売後しばらく経って伊藤園に「『煎茶』の読み方がわかりません」と問い合わせが入ったそうです。伊藤園は「日本茶を何と呼ぶか?」と大学生を対象にアンケート。すると1位は「緑茶」で、2位「日本茶」、3位「グリーンティー」、肝心の「煎茶」は4位だったそうです。ただここで単純に「緑茶」に商品名を変更したのではアピール力に乏しい。追加調査で「日本人は緑茶に家庭的なぬくもりと日常性を感じる」ということがわかり、それに合うフレーズを探したところ70年代の緑茶茶葉商品のCMで島田正吾さんという俳優が「お〜い、お茶」と呼びかけるシーンがあり、それがイメージにピッタリということでそのまま商品名にしたというエピソードがあります(伊藤園HP参照)。

今回の調査では、両ネーミングには「商品の内容がわかりやすい」では大きな差はありませんでしたが、「インパクトがある」では「缶煎茶」5ポイントに対し、「お〜いお茶」52ポイント、「親近感がわく」では「缶煎茶」18ポイントに対し、「お〜いお茶」は57ポイントと大幅なプラス効果が見られます。(改善ポイントはそれぞれ+47ポイント、+39ポイント)

これは商品内容のわかりやすさはそのままに、その他のイメージを効果的にアップさせたブランド変更の好例。特に親近感がアップしたことはメーカーの狙い通りの心理変容といえるでしょう。

(単位:pt)
イメージ 缶 煎 茶 お〜いお茶 改善ポイント








インパクトがある 5.0 52.0 47.0
商品の内容がわかりやすい 58.0 66.0 8.0
洗練された感じがする 3.0 3.0 0.0
親近感がわく 18.0 57.0 39.0
買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思う。
12.0 20.0 8.0








印象に残らない -23.0 -1.0 22.0
何の商品だがわかりにくい -2.0 -2.0 0.0
野暮ったい感じがする -9.0 -1.0 8.0
あまり親近感がわかない -9.0 0.0 9.0
あまり買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思わない。
-14.0 -2.0 12.0
*各項目のポイント数の算出方法
ポジティブイメージ項目のポイント:n数×1ポイント
ネガティブイメージ項目のポイント:n数×−1ポイント

「チョロQ」は親近感を増し、わかりにくさを払拭する絶妙な命名

Case4:豆ダッシュ→チョロQ

1980年にゼンマイばねで駆動するミニカーがテスト販売されました。名称は「豆ダッシュ」。その後「チョロチョロ走るキュートなクルマ」というコンセプトから「チョロQ」(「Q」は「キュート」の語感に似ていることから命名)とブランド名が変更され、正式に玩具市場に投入されました。その後20年以上経った今でもタカラトミーがシリーズで販売し、子供たちを魅了し続けているロングセラーの玩具となっています。

今回の調査では、両ネーミングともに「インパクトがある」が40ポイント以上となりましたが、その他の項目ではいずれも「チョロQ」が優勢。特に「親近感がわく」が「豆ダッシュ」11ポイントに対し、「チョロQ」47ポイント(改善ポイントは+36ポイント)、「何の商品だがわかりにくい」が、「豆ダッシュ」−47ポイントに対し、「チョロQ」−15ポイント(同+32ポイント)という結果が目を引きます。商品のわかりにくさが払拭され、さらに愛着を持って受け止められるようになった「チョロQ」というネーミング。玩具としてはまさに絶妙な名称変更といえそうです。

(単位:pt)
イメージ 豆ダッシュ チ ョ ロ Q 改善ポイント








インパクトがある 41.0 45.0 4.0
商品の内容がわかりやすい 8.0 21.0 13.0
洗練された感じがする 1.0 4.0 3.0
親近感がわく 11.0 47.0 36.0
買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思う。
4.0 16.0 12.0








印象に残らない -7.0 -2.0 5.0
何の商品だがわかりにくい -47.0 -15.0 32.0
野暮ったい感じがする -14.0 -2.0 12.0
あまり親近感がわかない -11.0 -4.0 7.0
あまり買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思わない。
-15.0 -5.0 10.0
*各項目のポイント数の算出方法
ポジティブイメージ項目のポイント:n数×1ポイント
ネガティブイメージ項目のポイント:n数×−1ポイント

圧倒的な存在感を示した「BOSS」

Case5:WEST(ウエスト)→BOSS(ボス)

サントリーの缶コーヒーブランドである「BOSS」も当初の商品名は「WEST」。1987年に発売されましたが売れ行きは今ひとつでした。そこで92年から新しいブランド名を「BOSS」とし、発売したところ大ヒット。15年以上続くロングセラーの人気ブランドとなっています。

今回の調査では「インパクトがある」が「WEST」8ポイントに対し、「BOSS」49ポイントと「BOSS」の存在感が「WEST」を圧倒。その他「洗練された感じがする」(改善ポイント+10ポイント)、「親近感がわく」(同+18ポイント)、「買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思う」(同+15ポイント)と、多くのポジティブ項目で改善が見られました。

一方ネガティブ項目では「印象に残らない」が「WEST」−21ポイントに対し、「BOSS」0ポイント、「何の商品だがわかりにくい」が「WEST」−69ポイントに対し、「BOSS」−24ポイントと、こちらも大幅に改善しています。ネーミングひとつで消費者の印象はガラリと変わり、それがヒットの一因であることがこの結果から読み取れます。

(単位:pt)
イメージ WEST
(ウエスト)
BOSS
( ボ ス )
改善ポイント








インパクトがある 8.0 49.0 41.0
商品の内容がわかりやすい 14.0 8.0 -6.0
洗練された感じがする 11.0 21.0 10.0
親近感がわく 2.0 20.0 18.0
買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思う。
4.0 19.0 15.0








印象に残らない -21.0 0.0 21.0
何の商品だがわかりにくい -69.0 -24.0 45.0
野暮ったい感じがする -4.0 -4.0 0.0
あまり親近感がわかない -18.0 -8.0 10.0
あまり買いたい(買ってあげたい)/
使いたい(使わせたい)と思わない。
-9.0 -3.0 6.0
*各項目のポイント数の算出方法
ポジティブイメージ項目のポイント:n数×1ポイント
ネガティブイメージ項目のポイント:n数×−1ポイント

今回の調査によりネーミングの重要性が改めて確認できました。また「その商品をどのようなイメージで訴求したいのか」、「最もアピールしたいイメージは何か」、「そのイメージは伝わりやすいか」などを、徹底的に消費者目線で考えることがネーミングのポイントであるともいえそうです。

調査概要

全国の10代〜50代のインターネットユーザーから回答を得た

サンプル数 200
調査期間 2008年9月29日〜9月30日
調査内容 5つの製品・サービスの変更前・変更後の名称についてそれぞれイメージを聞いた。
調査対象 5つの製品サービスの変更前・変更後の名称(フレッシュライフ・通勤快速/ゆめもぐら・大江戸線/缶煎茶・お〜いお茶/豆ダッシュ・チョロQ/WEST・BOSS)に対し、10のイメージ項目(インパクトがある/商品の内容がわかりやすい/洗練された感じがする/親近感がわく/買いたい(買ってあげたい)・使いたい(使わせたい)と思う/印象に残らない/何の商品だがわかりにくい/野暮ったい感じがする/あまり親近感がわかない/あまり買いたい(買ってあげたい)・使いたい(使わせたい)と思わない)の中から複数回答式で回答を得た。