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シリーズ1 第4回:トヨタ自動車株式会社

本編は、日本ブランド戦略研究所がトヨタのWebサイト関係者から伺った内容にもとづいて作成しました。

“企業サイト”と“商品サイト”を大胆に分離

トヨタ自動車グローバルサイト

【図1】グローバルサイト
トヨタ自動車商品情報サイト

【図2】商品情報サイト

2001年、トヨタ自動車の各部署が運営するWebサイトが、カーライフ情報を中心の生活ポータルサイト「GAZOO」を運営するGAZOO事業部の管理下に置かれることになった。

しかし、様々な部署が自分たちのやっていることをPRするために各々ホームページを立ち上げていたため、GAZOO事業部が引き取ったときにフタを開けてみたらかなり情報が多くて整理し切れていないという問題が判明した。そこで、まずは整理することから始めた。

整理する一番の目的は、クルマの情報を求めて来訪したユーザーを、全国各地の販売店が運営するサイトまで導くための流れをスムーズにすることだった。そのために数々のリニューアルを重ねてきたが、特に大きかったのが、2003年春に着手し、約1年かけて取り組んだ企業情報サイトと商品情報サイトの分離だ。企業情報は、英語版も用意して、グローバルに提供しているが、一方で、各車種の情報は、マーケティング情報として完全に国内に向けて提供。全く役割が違うので、分けたほうがユーザーの使い勝手が向上するという判断から実行した改善策だった。

それに伴い、組織改革も断行した。従来のGAZOO事業部の一元的な管理体制を改め、企業情報サイト(toyota.co.jp)に関しては、企業内の情報を集約している広報部の担当とし、2003年10月から同部署にもインターネットの担当者を置いた。以来、企業情報サイトに関しては、広報部の判断でコンテンツの追加、リニューアル等を進める体制を整えた。そして、商品情報サイト(toyota.jp)については、GAZOO事業部(現在は組織名をe-TOYOTA部に改変)が引き続き運営を担っていく。この組織を含めた見直しによって、ユーザビリティの高いWebサイトに生まれ変わりつつあるのだ。

情報の“入口”部分の強化に着手

クルマ検索

【図3】クルマ検索

大きく情報の住み分けを成功させたトヨタでは、同時に、コンテンツのブラッシュアップにも力を注いでいる。まずは、クルマの購入予定はあるが、車種が決まっていないユーザーのための検索機能の強化。つまり、販売店への流れの中の最も入口に近い部分のテコ入れである。

現在、優先順位をつけて、重要な部分から改善しているが、検索機能もそのうちのひとつ。車種のラインナップはそれほど多くなければ、写真付きの一覧で十分だが、トヨタのように車種が多いと探すのが大変なので、真っ先に検索機能を取り入れた。

日産自動車41車種、本田技研工業35車種に比べて、トヨタはほぼ倍である。この同業他社はいずれも一覧で対応しているが、トヨタも同じような手法で済ませては戸惑うユーザーも少なくないだろう。検索機能では、希望の価格帯やボディタイプ、乗車定員などを選べば、該当する車種を提示してくれる。車種選びに迷っているユーザーにとっては、大いに参考になる。

他社比較シミュレーション

【図4】他社比較シミュレーション

また、車種を提示されたユーザーは次の段階でこう思うだろう。「他社で同じような価格帯、スペックではどのようなものがあるのか」。そこで、トヨタは、業界ではいち早く2002年から「他社比較シミュレーション」という機能を実装した。これは、ある車種と、価格帯などの条件が同様の、トヨタの別車種や外車も含めた同業他社の車種のスペックを、見比べられる機能で、比較検討するときは非常に便利である。ここでも、ユーザーのクルマ選びを強力にサポートしているのだ。

これは当時としては珍しかったが、あえて導入したが、その結果、情報が頻繁に変わるので、それをフォローして維持していくのは大変だ。

「検索」と「比較」というコンテンツは、今のインターネットの中で最もニーズの高い機能である。その両者を押さえているあたりにトヨタのユーザビリティに対する“本気度”が伝わってくる。

FLASH・音声・テキストの三重奏

アイシスのスペシャルサイト

【図5】アイシスのスペシャルサイト

そして、トヨタでは、ユーザーアンケートも実施。率直なトヨタのWebサイトに対する感想も聞いている。

それによると、情報は充実していてデザイン的にもある程度統一が取れているが、面白みがないという意見が目立った。具体的には動画が少ないといったところに不満が見られたという。

そこで、その弱点をカバーするために、FLASHコンテンツの導入にも積極果敢に取り組んでいる。インターネット上の会社の顔ともいえるグローバルサイトのトップページには、時期や季節を意識したイメージ動画を提供。今現在は愛知万博の開催中ということもあり、トヨタがパビリオンで出展しているロボットの画像を巧みに使いながら、先進的なイメージを訴求している。

また、新しいハイブリッドシステムといった文字ベースでは伝わりにくい先端技術も、FLASHと音声、文字データを織り交ぜて、ツアー形式でわかりやすくレクチャーしている。自分のペースでクリックしながら進んでいけるので、理解力も高い。まさに、万博のパビリオンを見学しているような感覚で楽しく難解な技術を学習できる。

さらに、各車種の紹介ページでは、ほとんどに簡単なFJASHコンテンツを採用。加えて、アイシスやヴィッツ、プリウス、ポルト、マークXといった話題車種に関しては、スペシャルサイトを用意し、さらに凝ったFLASHコンテンツで、魅力をアピールしている。スペシャルサイトの特長は、生活シーンの中で使い勝手のよさを具体的にドラマ仕立てで紹介したり(アイシス、プリウス)、架空のバーを開設して、そこでマスターが車種の特長を語る(ヴィッツ)など、一ひねり加えて、クルマの優位点を楽しんで理解できるようなコンテンツに仕上げている。FLASH、音声、テキストを巧みにミックスさせ、限られた容量の中で最大限のリッチ化を図っているのもポイントと言えよう。

今後は“出口”の強化が課題

さて、今後の改良点としては、見積もりや申し込み、販売店への誘導・商談といった流れの中の「出口」の部分の強化が課題。

しかし、そこはまだやり切れていない部分であり、オンライン見積もりも古い時代からのものを受け継いでいるので、デザインも含めて早急に変えていかなければならない。また、販売店への動線も、現在は、様々なパターンが残ってしまっているので、お客様が迷わずに探せるようになるべく一本化させる予定である。

さらに、海外法人が運営しているWebサイトとの統一性といったトヨタならではの問題も抱えている。日本のWebサイトとできる限り統一感を保てるようなデザインや構造に仕上げて、企業ブランドのイメージに乖離が生じないように努力しているというが、実際に見てみると、米国サイトと日本のサイトではやはりデザイン面や構造面、コンテンツ面で明らかな違いが見られる。また、現地法人が発信する企業情報のグローバルサイトへの転載も進めてはいるが、まだ十分とはいえない状態。

NY、ロンドンに上場した結果、すべて連結で見られるようになり、米国トヨタの話もトヨタ自動車としてきちんと説明・フォローしなくてはならなくなった。

また、潜在的に訪問意欲があるユーザーを捕まえ切れていないのも課題だ。Web Equity2004の消費者によるサイト評価調査(2004年7月にインターネットにて実施。回収数は計7118件。うちトヨタのサイトを評価したのは296人)では、トヨタのWebサイトを「よく見ている」という回答者が10.5%、時々見ている」が25.3%に対して、「ぜひ再訪問したい」が27.7%、「機会があれば再訪問したい」が40.9%と、過去の閲覧状況と再訪問意向の間に非常に大きな開きがある。これは、潜在的訪問者を十分に取り込めていないことを意味している。

トヨタとしては、今後は、新しいサービスや情報を提供し始めたら、しっかりとPRすることも考えなくてはならない。人知れず情報を公開してお客様が来てくれるのを待っているのではなく、きてもらう工夫が必要となる。例えば、Webサイトの更新情報を公開するRSSなどの新技術の導入などを検討する方針だ。

道程はまだ3分の1

GAZOO

【図6】GAZOO

再訪問を促すには、コミュニティ機能も重要。トヨタでは従来からGAZOOがこの役割を担ってきたが、掲示板にネガティブな書き込みが見られるなど、マイナス面も少なくないのが現状である。GAZOOもかなり年代を重ねているので、新しいサービスの方向性を検討するなど、トヨタでも改善策を模索中だ。

ほかにも、テレビCMとのリンクの強化などが挙げられる。テレビCMと同期させて同じイメージのコンテンツを提供したり、CMでスペシャルサイトのURLを公開して、Webで限定コンテンツを提供するといった、クロスメディア的な手法が現在注目されているが、トヨタでも、前者では新型ハイブリッドシステム関連で、後者ではコンパクトカー「ist」の「ほっぺの理由」というコンテンツで、それぞれマス広告との連携を見せた。こうした動きも今後は顕著に見られるようになるだろう。

「まだ本当の意味でのリニューアルは、イメージとしては、3分の1程度しか終わっていない」というトヨタ。今年一年でかなりまた改良を加える方針という。Webサイト価値ランキングトップの完成へ向けた動きに、今後も目が離せない。

トヨタ自動車による、Web価値増大のための改良ポイント
  • 企業情報と商品情報をドメインを含めて明確に分離し、それに合わせて組織も変更
  • 検索機能と比較機能というインターネットの2大トレンドを効果的に導入
  • FLASH・音声・テキストを巧みに使ってコンテンツをリッチ化
  • マス広告との連動というクロスメディアも積極的に実施
  • 早期に販売店というリアルへの動線も強化