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シリーズ1 第3回:JAL(株式会社日本航空)

話し手
日本航空インターナショナルe化推進部 マネジャー田中剛氏

旅のワンストップサービスを提供

JAL国内線

【図1】JAL国内線

2005年4月1日、日本航空は、Webサイトを約2年半ぶりに大幅にリニューアルすると同時に、組織も「e-ビジネス推進チーム」から「e化推進部」に格上げ。eビジネス強化の姿勢を名実ともに打ち出した。 1995年6月に広報関連情報の掲載目的でWebサイトを立ち上げて以来、2、3年に一度のタイミングで、全面的なリニューアルを実施。その間、Web上でのチケット予約・購入機能やWeb購入割引など便利なサービスを導入するとともに、情報構造の整理、デザインの刷新にも取り組み、時代とともにWebサイトを進化させてきた。そして、スタートから10年という節目の年に、生まれ変わり、ネット上にその全貌を現したのだ。 今回のリニューアルの大きなポイントは、まず、旅に関連したサービスを徹底的に充実させたことだろう。それは、国内線、国際線の画面左を陣取るメニューを見れば一目瞭然である。航空券の予約ができる点は従来と大きくは変わらない。しかし、その真横に「ホテル」、「レンタカー」とインデックスが並び、タブで切り替えられるようになっている。つまり、この画面から航空券のみならず、ホテルやレンタカーの予約も簡単にできるのだ。 しかも、ホテルに関しては、複数の予約サイトを横断的に検索した結果が表示されるので、同じホテルでも値段やサービス内容に違いが生じることもあり、それを見比べて、より自分のプランに合ったものを選択できる比較サイト的な機能も享受できる。「第三者的な立場にある日本航空だから実装できる機能。お客様にも非常に好評」と、同社のWebサイトの構築・運営を担うe化推進部の田中剛マネジャーは説明する。 さらに、メニューの下に目を移していくと、自宅から目的地の空港への手荷物送付、空港の駐車場の予約、海外旅行保険や海外での携帯電話のレンタルなど、各種サービスの契約もサイト上でできることが確認できる。要するに、飛行機を使った旅に関わるすべてのサービスの予約や購入がひとつのサイトで済んでしまう、“旅のワンストップサービス”を日本航空では提供しているのだ。 こうした便利さに加えて、各種サービスを日本航空経由で予約・購入すると、ほとんどのケースでマイルが貯まるという特典が付く。利用する付加価値は高く、このわかりやすいメリットもサイトの利用率の向上に大きく貢献している。

省くステップ、残すステップ

トップページ

【図2】トップページ

そして、ユーザビリティの強化にも注力している。まずトップページでは、ユーザーの利用目的に応じて、「国内線」、「国際線」、「JALマイレージバンク」の3カテゴリーのうちひとつを選択できるような構成を採用。利用頻度が高い国内線をトップページとして、そこから国際線などに切り替えられる仕組みも考えられたが、あえてそうした構成を避けた。これにも明確な理由がある。「検索エンジンからJALや日本航空と叩いて訪れるお客様がまだたくさんいる。お客様の気持ちとして、国際線をイメージしてキーボードを叩いている可能性もあるし、マイレージを思い浮かべて叩いているかもしれない。それなのに、我々のほうで国内線と決め打ちしてしまうのは問題なので、最初は振り分けのページに動線を持っていき、そこから選択できるようにした。ただし、利用頻度の高い国内線ユーザーのため、空席照会や予約のステップにすぐに進める機能もトップページに新たに配置した。」(田中氏)。 会員専用ページへのログインに関しても、日本航空独特の考えが盛り込まれている。一度ログインを済ませた後は手間を省くため、IDとパスワードを保存させるオートログイン機能を導入しているサイトは多いが、日本航空では、IDはクッキーで格納し、パスワードだけは毎回入力させる方式を採っている。これは、ユーザーが会社環境でパソコンを使うことを考慮して、個人情報を保護するという観点から出した結論だ。 会員専用ページも様々な工夫が見られる。ひとつは、マイエリア的な要素の採用。国内線、国際線、JALマイレージのどのページにいようが、フライトの予約状況がワンクリックでチェックできるようになっている。「マイレージのページを見ているときに翌日の国内線の予約を確認したいというニーズはある。従来は、一度国内線にページを切り替える必要があったが、新方式ならその手間をワンクッション減らせる」と、田中氏は指摘する。 加えて、「お客様のキャンペーン一覧」をクリックすると、居住地、搭乗の実績、会員のステイタス等に適応したキャンペーンやメッセージ、バナー等が、ONE TO ONEにカスタマイズされて表示される。また、JALマイレージについて、貯める目標を1万マイルなどと設定すると、到達直前に「まもなく到達」というメールが送られたり、到達した暁には祝福メールが届くような機能も新たに実装。「こうした機能はお客様からいただいた意見を可能な限り反映させた結果」と田中氏はその充実ぶりに胸を張る。 日本航空のユーザビリティの特長は、余計なステップは省きつつも、必要なものは残すという発想が貫かれていること。共通して言えるのは、常にユーザー側の使用環境を念頭に置いている点である。

デザインはシンプルにわかりやすく

リニューアルでは、デザインにも改良が施されている。前回のサイトでは、コーポレートカラーの赤、黒、グレーに加えて、国内線でグリーン、国際線でブルー、JALマイレージで紺というコンセプトカラーを使用していた。しかし、今回はシンプルにコーポレートカラーを打ち出すために、グリーン、ブルーといったカラーの使用はやめて、基本的には赤、黒、グレーを中心にサイト内を配色している。中でもグレーの使用頻度は高いが、それも濃淡を使ってアクセントをつけ、平板にならないように工夫しているのだ。 またJALのロゴマークが四角いイメージのデザインから、太陽のアーク(弧)をイメージした曲線主体のデザインに変わったため、Webサイトもそれに合わせて、随所に丸みを帯びたフォルムを取り入れている。 「色も必要なときだけ使う。具体的にはポイント、ポイントで赤を使用する」(田中氏)というコンセプトのもと、例えば、予約のプロセスに入ると、通常はグレーのボタンだが、意思決定ボタンに関しては、赤いボタンを採用。前回のデザインでは赤枠だったが、今回は重要なボタンだという意識をより一層持ってもらえるような「わかりやすさ重視」のデザインワークに変更したというわけだ。「今後は海外地区についても、この新しいデザインに変えていく。ただ、日本のお客様と外国のお客様では、デザインの好みが違うので、“ルック&フィール”は統一しつつも、全く同じではなく、応用編でやっていければいいと思っている」(田中氏)。

リッチコンテンツの有効活用

JAL TV

【図3】JAL TV

さて、リニューアルを終えて、ひと段落といった感のある日本航空のWebサイトだが、これが完成形だとは田中氏も考えていない。今後の取り組むべき方向性や課題はすでに頭に列挙されている。 そのうちのひとつが、リッチコンテンツへの注力だ。すでに「JAL TV」というコンテンツを立ち上げ、CMのみならず、国内・海外の話題のスポット紹介、スポンサード・イベントの紹介、さらには、2005年2月に開始した、サイト上でチェックインを済ませればダイレクトにセキュリティゲートから入れる「ICチェックイン」といった文字ベースでは端的に説明しにくいサービスの映像による紹介を提供している。また、予約プロセスにおいても、「簡単窓口モード」、「クイックモード」という2種類のフラッシュ版予約画面を用意するなど、他社と比べてブロードバンド環境に対応したコンテンツ作りでは一歩リードしているのが現状だ。 今後も増やしていくという方針は固まっている。「ただし、今回ビジュアルが多くなったためにモバイル環境だと重たいという意見を早くもいただいている。リッチなコンテンツをどの場面でどう使うことがお客さまにとって有効なのかをよく見極めながら、使っていきたい」と、田中氏はここでもユーザー重視の姿勢を崩さず、取り組んでいく構えだ。 コミュニティ機能の拡大も課題のひとつだ。現在、グアム、サイパン、ホノルル線にフォーカスしたキャンペーンブランドである「Reso’cha(リゾッチャ)」の公式サイトで、旅行者からの旅行写真・日記ブログの投稿を受け付けるなど、コミュニティ機能を提供しているが、こうした旅行者参加型でユーザー同士が触れ合える場所の創出にも力を入れていくそうだ。 また、ヘビーユーザーを重視しつつも初心者にとっても使いやすいWebサイト作りも心がけていくという。今回、トップページの振り分けやボタンの色や名称にこだわったのも、初めてのユーザーでもスムーズに予約・購入ができるようなWebサイトを目指したからだ。 「2004年、国内線の個人では、日本航空のWebサイトでチケットを購入して搭乗するお客様が全体の50%を越えた。これが、ビジネス路線だと60%を越える路線もあります。今後は個人の50%を常時60%さらにそれ以上に上げていくのが目標。そのためにも、初心者の利用頻度を上げるような方策をこれからも考えていきたい」と、田中氏は意気込みを語っている。

JALによる、Web価値増大のための改良ポイント
  • 旅に関する“ワンストップサービス”を提供
  • 常にユーザーの使用環境を考え、余計なステップは省きつつも、必要なものは残す
  • コーポレートカラーを印象付けるため赤、黒、グレー以外に極力余計な色は使わない
  • リッチコンテンツの有効活用を実施する
  • ヘビーユーザーを重視しつつ、初心者の利用頻度を上げるような方策を考える