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Brand Strategy journal ブランド戦略通信

Webマスターに聞く!

シリーズ2 第4回:キヤノン株式会社・キヤノンマーケティングジャパン株式会社

※4月1日よりキヤノン販売株式会社はキヤノンマーケティングジャパン株式会社に社名が変更になりました。
話し手
キヤノン株式会社 コーポレートコミュニケーションセンター
ウェブコミュニケーション部 部長

村上 潤一氏
顔写真
キヤノン販売株式会社 コミュニケーション本部
ウェブマネジメントセンター 所長

増井 達巳氏
顔写真

テーマは機能、情緒、自己表現の向上

【表1】

【表1】Webサイトのあゆみ

「パワーブランドサイトを目指す」——。2005年8 月、キヤノンは自ら高いハードルを設け、3年ぶりとなるWebサイトの大規模リニューアルを成し遂げた(【表1】)。「ブランド力の高いサイトを作るには、『機能的価値』、『情緒的価値』、『自己表現的価値』の3つの価値を高めることが必要。その提供すべき価値を表現するにはどういう情報構造が最適で、どういうデザインが相応しいかという観点で、再構築を進めた」と、キヤノン販売株式会社コミュニケーション本部ウェブマネジメントセンター所長の増井達巳氏は説明する。

3つの価値向上のために最初に取り組んだのが、課題の抽出。Webサイトの欠点を見出すために「自己否定」する形で500枚にも及ぶ課題シートを作成し、その中から真の課題をピックアップ。企業情報サイトに関して言えば、「機能的価値」では、導線の再整備が課題として上がってきた。

「キヤノンは、キヤノン株式会社とキヤノン販売株式会社の製販2社があり、それぞれ企業情報ページを持つ。前者は研究開発、生産、グループ本社機能、後者は製品の販売、サービス、マーケティングを担うが、お客様は判別できず、アクセスログを分析すると、情報を探して明らかに迷子になっている様子が見られた」(増井氏)。

そこで、改善策としてまず「キヤノンについて」という企業情報のポータルを新たに設け(【図1】)、見出しをWebサイト全体のトップページに設置。ポータルでは、キヤノン株式会社とキヤノン販売株式会社を簡単な事業内容の紹介文とともに併記し、環境への取り組みや社会文化支援活動など両社に共通する情報は「キヤノンの取り組み」として、別枠で提供。初めて来たユーザーでもスムーズに目的の情報にたどり着けるように、ポータルでワンクッションを置いてから導線を振り分ける仕掛けを施した。

一方で、各社のIRや採用の情報を求めていたり、何度も訪問しているユーザーのためには、最短ルートで行けるようにトップページ下に「キヤノン株式会社」と「キヤノン販売株式会社」の「会社情報」、「投資家向け情報」、「採用情報」の見出しを設置。初心者と目的が明確なユーザーやリピーターの導線を分けて設けた。「『キヤノンについて』がクリックされる頻度は増えている。我々が描いたシナリオ通り、お客様をうまく誘導できている」とキヤノン株式会社コーポレートコミュニケーションセンターウェブコミュニケーション部部長の村上潤一氏はその効果について自信を持って語る。

また、見出しの表現にも配慮。「『キヤノンについて』も、『会社情報』、『企業情報』に代わる言葉を考えてひねり出したもの。グローバルサイトへのナビゲーションでは、『English』を『Global Canon』の変更した。Englishと表現すると、日本語サイトの英訳という意味になるが、実際のリンク先のグローバルサイトは必ずしもそうはなっていない。日本在住の外国の方からWebマスター宛に直接指摘を受けたこともあり、今回、変えることにした。こういった表現は、キヤノンに続いて他社のWebサイトでも使われるようになっているようだ」(村上氏)。

キービジュアルも“キヤノン製”に

「情緒的価値」では、キービジュアルの問題が指摘される。「それまでビジュアルはレンタルポジを使用。ひょっとしたら他社のカメラで撮影されたかもしれない写真を使うのはおかしいという声が上がった。そこで、05年8月以降は、キヤノンの機材を使い、社内の専門カメラマンが、季節性や演出を考えながら撮った写真を採用するようになった」と、増井氏は内情を話す。企業情報サイトのポータルで使用しているビジュアルも、実はキヤノン株式会社の本社の一室で撮影したもの。ユーザーから見えない部分のリアリティにもこだわった。

トップページのビジュアルも、以前は製品写真を載せて、クリックするたびにローテーションする仕組みを取り入れていたが、「あまりにも現実的であり、将来へのつながり、暮らしの中のベネフィットを訴求するものになっていなかった。それに、色々な製品を見せたいという企業側の都合でトップページのビジュアルをクリックごとに変えるのも問題視された。トップページに帰ってきて絵が変わっていたら、お客様によっては違うページに来たと誤解されかねない」(増井氏)。リニューアル後、トップページでは、独自に撮り下ろした写真を採用(【図2】)。1週間から2週間ごとに新しいビジュアルをアップデートし、「想いのまま、意のままに」という企業メッセージも文言として加え、情緒性豊かなものに仕上げた。

「自己表現的価値」にも一石が投じられる。「企業とつながりたい、製品を持つことで自己表現したいと考えているお客様への対策。そのひとつに、環境情報への注力が挙げられる(【図3】)。お客様は環境対策に取り組む企業の製品を買ったり、その活動に賛同することで、自分も環境に優しい人間になりたいという『参加型のブランド価値』を希求。『環境への取り組み』、『カートリッジの回収・リサイクル』といった関連情報を知りたがっている様子が見え隠れしていた」(増井氏)。キヤノンでは月に一度、関係者を集めて環境のコンテンツを吟味。情報の更新、内容の最適化なども頻繁に実施し、価値創造をサポートする。

個人投資家重視型へ進化

キヤノンでは毎年大きなリニューアルを実施してきており、2006年もいくつかの計画を立ち上げている。コンセプトは、「個人投資家を強く意識したもの」。その一つとして、キッズサイトの立ち上げを予定しているという。「子供向けといっても漫画のようにしたり、情報を削ることはしない。デジカメのメカニズムなど大人でも楽しめるような内容を目指す」と、増井氏は方向性を示す。個人投資家を子供を絡めて囲い込むと同時に、未来のキヤノンファンの醸成にもつなげるという戦略がうかがえる。

そのほか、映像系コンテンツに注力するなど、計画は目白押し。次々と強力なコンテンツを導入することで、企業情報サイトも含めたWebサイト全体が、ますます“パワーブランド化”することは間違いなさそうだ。

キヤノンのWebサイト構築のポイント
  • 「機能的価値」、「情緒的価値」、「自己表現的価値」を高める“パワーブランドサイト”を志向
  • Webサイトを「自己否定」する形で500枚にも及ぶ課題シートを作成し、真の課題を抽出
  • 企業情報のポータルサイトを設置し導線をスムーズに
  • キービジュアルはキヤノン製カメラで社内カメラマンが撮影するなど内製化
  • 参加型ブランド志向のユーザーに対応し環境情報に注力
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