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シリーズ2 第3回:アサヒビール株式会社

話し手
アサヒビール株式会社 酒類本部 宣伝部 プロデューサー
横山和幸氏
氏

「お客様視点での行動分析」を採用

企業情報

【図1】企業情報 [1]
沿革

【表1】Webサイトの歩み

すべては、お客さまの「うまい!」のために。

アサヒビールが各媒体で掲げるキャッチコピーである。このお客様第一主義的な発想は、2005年9月のWebサイト全体の大規模なリニューアルの際にも、徹底して貫かれた(【図1】)。「お客様の視点に立ち、それぞれのユーザーのニーズに合った情報を分かりやすく伝えていくのがWebサイトの使命。改めてそう捉え直し、それを実現するという強い意志で再構築に着手した」と、アサヒビール酒類本部宣伝部の横山和幸プロデューサーは振り返る(【表1】)。

リニューアルにあたり、プロジェクトメンバーで何度も議論を重ねた部分が「利用動機の分析」、「アクセスログ分析」を元にサイトマップを確定していく部分であったとのこと。主要なターゲットとなるお客様の行動を分析し、それぞれの情報収集や購買にいたるまでの行動特性をシミュレーションし、それに基づいてコンテンツや機能、サイト構造を設計するいわばWebの骨格の部分である。「商品情報、企業情報、IR、環境などを見たい人はどんな人か、どういう動線を辿るかなどを丹念に洗い出した。アクセスログも並行して分析した」(横山氏)。

そして、従来の「パッチワーク」のようにバラバラに配置されていたコンテンツが、解りやすい情報構造に生まれ変わった。

ニュースリリースでは、タブの切り替えだけで、グループ会社であるアサヒ飲料、アサヒフードアンドヘルスケアのヘッドラインが確認できるのが特徴。同じアサヒの冠をつけた企業の情報はニーズがあると判断して提供している。

今回の調査で、アサヒビールの企業情報サイトを「情報が探しやすい」と回答したユーザーは37.5%と、ビール業界でトップ。調査対象企業全体でも3位と、非常に評価が高く、効果は客観的にも裏付けられている。

“CSR活動”を拡充

図2
【図2】CSR活動 [2]

リニューアルではコンテンツの拡充も図っている。その代表格は、CSR関連情報である(【図2】)。従来、社会的活動の情報は、CSRレポートを初めとして,メセナサイト、環境情報サイトなど別々のコンテンツで報告していた。今回、企業の社会的責任の情報開示という観点を踏まえて、それぞれの内容を「CSR活動」ページの中で一括して報告することとした。

ページ内では、「消費者・市民社会のために」、「取引先のために」、「株主・投資家のために」といったステークホルダー別にカテゴリー分けし、それぞれに関係性の深い情報を提供する構造を形成。自分に必要な情報へ直感的にたどり着けるようになった。例えば、従来は別立てだったいくつかの環境関連サイトについて、情報の位置付けを明確にし、CSR内のコンテンツに含めることで、ぶつ切りにならない一貫性のある情報提供を実現した。内容自体も、定期的に開催している環境セミナーのレポートや環境報告書といった専門的なものから、環境配慮型のビール製造工程、環境保全事業をアニメやゲームで紹介するものまで幅広く取り揃える。

さらに、CSR関連に限った最新ニュースのヘッドラインも提供しており、まさにお客様視点がなせる業と言えよう。

「CSR活動」ページの拡充は個人投資家も意識している。アサヒビールの取り組みをしっかり伝え、単なる投資対象ではなくファンになってもらうことが目的」と、横山氏は話す。

図3
【図3】アサヒサポーターひろば [3]

IR情報ページでも個人投資家重視、ファン養成の姿勢は垣間見られる。「投資家情報」というページのほかに、個人投資家向けの特設ページも設置されている。名称は「アサヒサポーターひろば」(【図3】)。株主になるためのイロハ、株主のメリットなどを丁寧に説明する。

そのほか、目を引くコンテンツに、「しあわせ回路探検隊」がある。これは、食と健康に関する研究を推進するアサヒビールお客様生活文化研究所が提供しているもの。旬な話題をテーマに毎週更新する「毎週アンケート」や、食や健康、しあわせについての研究レポートなど、非常にユニークな情報を提供している。

今回の調査では、「内容が充実している」との回答が34.0%と全250社の中でトップ。また、「株や債権に投資をしたい」は14.0%と、高い評価を得ている。いずれも、注力したポイントが評価されるという努力が報われる結果となった。

ページデザインはビジュアル面での工夫も

見出しの脇には、各コンテンツの内容をイメージした画像を配するほか、企業情報サイトトップページの上段スペースには、アサヒビールの文化活動や環境保全活動を象徴する大画像を配置。同スペースでは3種類の画像を用意し、ページを読み込むたびに変わるように設定するなど、ユーザーの興味を喚起する仕掛けも隠し味として加えている。「硬くなりがちな企業情報の雰囲気を和らげるため、またCSR活動に対するアサヒビールの想いを伝えるために、ある程度ビジュアルは必要」と、横山氏は主張する。

地域の情報提供強化を模索

リニューアル直後ではあるが、横山氏は早くもステップアップのための課題を挙げる。「ひとつは、地域ごとのお客様に合わせた情報提供の強化。Webサイトは商品とお客様を結ぶ接点であり、これだけ情報を求めて訪れているわけだから、それに見合うものを提供していかないと商品は売れなくなる。地域の営業を巻き込んだWebサイト活用のための体制作りが目下の課題で、それができたら次を考える」という。課題を克服したアサヒビールのWebサイトがどのようにパワーアップするのか。今から楽しみである。

アサヒビールのWebサイト構築のポイント
  • 最適な情報提供のためにサイト内行動の分析を徹底
  • CSR情報はステークホルダーごとに分けて提供
  • アサヒビールの“ファン”になってもらうためにCSR情報を拡充
  • 個人投資家向け特設ページも提供
  • ビジュアルを用いてCSR活動を効果的にアピール