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Brand Strategy journal ブランド戦略通信

実践!ブランド戦略

第85回:ブランドを象徴する人物との関係

Q 大きな社会的意義を持つ業績を挙げた人物をどのように処遇すべきでしょうか。
A その人が将来新しいフィールドで活躍することをも念頭に、会社と良好な関係を保つことに留意すべきと考えられます。

田中耕一氏のノーベル賞を契機として、田中氏が在籍する島津製作所が改めて注目を集めました。これに対し、島津製作所側は田中氏の名前を冠した研究所を開設するなど、同氏の業績にふさわしい処遇を行いました。
民間企業に在籍中であるにも関わらずノーベル賞を受賞した人は珍しく、これからも、日本のノーベル賞受賞者として「島津製作所の田中氏」と紹介されるシーンが度々起きることが想像されます。

日本人のノーベル賞受賞者では江崎玲央奈氏も民間企業在籍中の業績が評価されての受賞です。受賞時には江崎氏は米IBMの研究所に在籍していましたが、受賞理由は同氏が東京通信工業(現在のソニー)在籍中の発見です。受賞の背景には、同社ファウンダー・井深氏が、当時は中小企業に過ぎなかった日本の一民間企業に在籍したままより、米国の研究所に移った方がチャンスが広がると勧めたことがあるようです。そのためソニーの江崎氏と紹介されることこそありませんが、このエピソードはソニーの懐の深さを表す美談というべきものでしょう。

「ノーベル賞級」とも言われた青色発光ダイオードを発明した中村修二氏と、同社が発明時に在籍した日亜化学工業との関係は対照的です。両者の関係は、職務発明の対価を巡り中村氏が日亜化学を訴えるという有名な法廷闘争に発展しましたが、この訴訟はその前に日亜化学が中村氏を営業機密漏洩で訴えたことが契機となったと伝えられます。日亜化学の提訴がなければその逆もなかったかもしれないことを考えると、会社側の態度によってトラブルが拡大された印象があります。
これからも中村氏の業績が様々な場面で取り上げられることを日亜化学は防ぐことはできません。せいぜい日亜化学ができるのは、発明対価を巡る訴訟で中村氏の発明を実質マイナス価値と主張したように、中村氏の業績を徹底的に否定することくらいでしょう。しかし、このような状況は日亜化学のブランド価値にとって決してプラスになるとは思われません。にも関わらずそうせざるを得ない状況に至ったことは非常に不幸なことと思われます。

会社のブランドを高めるような象徴的な人がいつまでもその会社に在籍を続けるとは限りません。そのような人物は著名であるがゆえに、退職後も自社のブランド価値に直接、間接に影響を与え続ける可能性があります。それがプラスになるか、少なくともマイナスとならないように注意することが重要と考えられます。

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