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第7回:品質イメージの管理−シャープのブランド戦略

シャープの代表する製品である液晶パネルは、デジタル製品であると同時に、非常にアナログ的な技術ノウハウが集まった製品である。

液晶パネルは素人目にはどれも同じに見えるかもしれないが、実際にはどれも同じものというわけではない。たとえば、AというPCメーカーは画面の輝度を重視し、別のBというPCメーカーはコントラストを重視するということがある。そのような場合には、それぞれのニーズに合わせてカスタマイズした製品を提供する必要がある。ユーザーごとにニーズに応じた製品を提供するためには、常に顧客との接点からニーズを引き出すことと、それを実現するための技術が必要とされる。液晶材料は組み合わせが無数にあり得るから、どれが最適かを見極めるには経験ノウハウがものをいうことになる。

また、生産性やコストを大きく左右する要素として歩留まりがある。歩留まりの低減もやはりアナログ的な試行錯誤の積み重ねが必要とされるが、あいにくその具体的な内容は外部からはもはや窺い知ることは困難となっている。

というのも、同社の最新鋭生産拠点である亀山工場では徹底した技術のブラックボックス化による外部流出の防止対策が施されているからである。

一方で、一般消費者に対して同社は「亀山工場製」を積極的に訴求している。

液晶パネルを含む電子デバイスの分野では、あまり消費者向けの訴求を行わない会社が多い。インテルは例外的に、自社製のCPUを搭載したパソコンを指名買いしてもらうことを狙って、積極的に「インテル インサイド」のキャンペーンを展開してきた。

これに対して、シャープの場合には部品としてセットメーカーに販売するだけでなく、一般消費者向けの製品も自社で製造、販売しているということが「亀山工場」のブランディングの重要な動機となっているように思われる。

それにしても、液晶パネルのような先端分野のしかも量産品で「○○製」を訴求するのは意外であり、それゆえに目新しさを感じる。筆者の先入観かもしれないが、「○○製」は職人の技術による農林水産品や手工業的な製品で用いられるブランディングで用いられることが多いように思う。

ハイテク製品の「○○製」の「○○」にはどちらかといえばソニー、松下などの企業ブランドが当てられるケースが多い。しかし、シャープのように、「企業名+産地」という訴求がうまくいけば、日本のモノづくりの復活を象徴する事例にとどまらず、ブランドの切り口からも非常に興味深い示唆を与えてくれそうである。

※本コラムは、2006年11月〜2007年4月にかけて「japan.internet.com」に掲載された内容に加筆・修正したものです。